抗議声明

東京都知事 石原慎太郎殿
東京都大学管理本部長 山口一久殿

 東京都立大学を初めとする都立4大学の統合問題について、本年81日以降の展開は、我々が深く憂慮する事態となっている。すなわち、石原慎太郎都知事のもと、東京都は、自ら策定した「東京都大学改革大綱」に則ってそれまで進めてきた統合構想と準備体制を、81日に何ら正当な理由なく一方的に破棄することを突然宣言し、「都立の新しい大学の構想について」(以下、「新構想」)を発表した。これ以降、「新大学」の検討体制は、都立大学総長を排除し、また都立大学の各学部長に対しては、「資源」としての現大学を知悉する「個人」としてのみ「参加」を認め、学部などからの意見を反映させることはおろか、検討の内容についても一切公表しないことを求めるという、強権的なものとなっている。また東京都大学管理本部は、都立4大学の教員に対して、都が示す「新構想」に包括的に賛成する「白紙委任状」とも言うべき「同意書」の提出を求め、各大学内に大きな混乱と対立を引き起こしている。さらに、この「同意書」は、「新大学」における教員配置計画や詳細設計の内容について、一切口外しないことへの「同意」も求めている。このような秘密主義的態度は、民主主義社会においては到底許されるものではない。

 このように東京都が情報を開示しない中で、在籍する学生・院生は、将来に対する不安から幾度となく大学管理本部に足を運び説明を求めたが、大学管理本部は全く回答せず、不誠実な態度に終始している。さらに、一部には、そうした在学生の不安を大学側が煽っているとの批判がある。これは一体どういうことなのか。「秘密」の厚い壁に包まれた「新構想」に対して在学生が将来への大きな危惧を抱き、止むに止まれず大学管理本部に訴えることは、当然のことであろう。こうした事態を招いている原因は、言うまでもなく、大学管理本部の強権的・強圧的で秘密主義的なその態度にある。大学管理本部は、速やかに情報を公開し、新しい大学のあり方を議論する開かれた場を構築しなければならない。

 さらに、こうした手続き上の問題に加え、現在示されている「新構想」の内容にも大きな問題がある。

 「新構想」は、人文科学系の学術に対する著しい軽視と激しい攻撃に、その特徴がある。すなわち、「新構想」では、人文科学系の教員定数を現状の半分以下にするという大幅な人員削減と、英文・仏文・独文・中文・国文といった文学系専攻の消滅が計画されている。しかし、東京都立大学の人文科学系各専攻は、これまで日本の人文系学術界に多くの傑出した人材を輩出し、学界において重要な位置を占めてきた。「新構想」は、こうした学術的蓄積・成果や貢献について何ら考慮することなく、それらを大きく損なわせようとするものである。このような行為を「改革」と呼ぶことはできない。文化と「知」の破壊である。

 また、この「トップダウン」などという流行の言葉のもとに行われている強権的・強圧的な大学破壊が実現されるならば、それが「モデル」として、独立法人化を目前にした全国の国公立大学、ひいては私立大学の「改革」に波及することは必至である。このような学術破壊は、この国の「知」そのものに取り返しのつかない打撃を与えるであろう。東京都立大学が直面している問題は、単に都立大学だけの問題ではない。

 以上から我々は、現在、東京都によって進められている東京都立大学の破壊に対し、深い危惧の念を抱き、ここに強く抗議する。

                               以上

             20031031
              東京都立大学史学科OB会および支援者一同