「現行を下回るいかなる人事・給与制度は許さない──「新大学の教員の
 人事・給与制度(任期制・年俸制)の概要について」の説明をうけて──」
 

 組合は、11月19日に、大学管理本部から、「新大学の教員の人事・給与制度(任期制・年俸制)の概要について」(別掲)の説明をうけました。11月21日には、読売、毎日の2紙が、新たな人事・給与制度を東京都が決定したかのごとく取り上げています。しかし、組合は「当局の考え方の概要」がまとまったので、その説明を受けたのであって、この内容で協議したいとの提案を受けたわけではありませんし、組合との協議を尽くさないで、新大学の教員の人事・給与制度を東京都や大学管理本部が一方的に決定できるものでもありません。組合は、新聞報道の情報がどこからリークされたのか、大学管理本部に調査を求めています。
 大学管理本部が、具体的な提案を行えば、協議を始めることになりますが、今回出された「新大学の教員の人事・給与制度(任期制・年俸制)の概要について」は、教員の給与モデルも示されていませんし、人件費の総額や人件費率を算定するための大学の総収入の見積もりやそこに占める東京都からの運営費交付金の割合や教職員定数など、協議に必要な資料も示されていません。協議は、これから始まるのであって、すでに任期制や年俸制の導入が決定されたわけではないのです。組合は、組合員の皆さんに、こうした協議の過程で、必要な情報は公開してゆきます。どうか、協議の過程について、注視いただいて、ご意見があれば、組合に寄せて頂きたいと思います。
 また、協議が始まれば、協議中であることを理由に、本文にあるような、任期制への同意書と新大学の設置認可に伴う就任承諾書を抱き合わせで求めてくることも想定されますが、そのような強要を行わないよう、協議の過程で、大学管理本部に要求してゆきます。

 11月19日に、大学管理本部から、「新大学の教員の人事・給与制度(任期制・年俸制)の概要について」の説明をうけました。まず、重要な点として確認しておかなければならないのは、これは、あくまでも「当局の考え方の概要」が示されたもので、当局からの、法人化後の勤務条件の正式提案ではない、ということです。
 大学管理本部からは、宮下調整担当参事、泉水副参事、櫻井総務課長が説明にあたり、組合からは、乾副委員長、田代副委員長、小林書記長が出席しました。
 大学管理本部の説明では、「新制度は、主任教授、教授、准教授、研究員という職を設け、大学の中心的な役割を果たす教授(主任教授?仮称)は任期制をはずし定年65歳、教授は任期5年で再任可、教授5年以上で主任教授(テニュア)審査を受ける資格を得る、准教授は任期5年で、1回のみ再任可、准教授5年以上で教授審査を受ける資格を得る。また、これまでの助手に代わる制度として、研究者の養成の立場から、ポスドク終了者(28歳以上)を対象として、研究員という職を設ける。研究員は、任期3年で2年まで延長可、研究員3年以上で准教授審査を受ける資格を得る」というものです。主任教授は、原則として内部昇格だが、例外的に外部から公募もあり得る。教授や准教授への昇任はそれぞれ、公募で外部からも応募できる、としています。
 現在の4大学の教員は、制度発足時に、旧制度(現行制度)か新制度(今回示された、任期制・年俸制)を選択できるが、旧制度を選択したものは、現給据え置きで、昇任ができない。旧制度を選んだ場合は、いつでも新制度を選択し直すことができるが、新制度を選んだものは、旧制度へは戻れない。
 年俸制については、基本給、職務給、業績給で構成し、基本給(人件費の原資の概ね5割)は、生計費相当分で、職務給(人件費の原資の概ね3割)は、例えば、授業を**コマ以上うけもてば、1コマにつき**円、入学試験業務に従事すれば**円、学部長になれば**円といった業務の量に応じて支払われる給与。従って、自分は外での活動を中心にしたいので、授業をあまり受持ちたくない場合は、授業加算が少ないので、職務給の割合が少なくなる。業績給(人件費の原資の概ね2割)は、教育活動、研究活動、社会貢献など、各活動分野の業績評価に基づき単年度で評価し、業績がよければ加算し、業績が悪ければ減額する。
 また、資料には書かれていませんが、国公立大学との人事交流を考慮して、現行の退職金制度は残し、年俸の中には退職金の相当分は加算しない。法人退職時に、退職金は別途支給する。」としています。国公立大学法人間では、退職金は通算されますから、他の国公立大学法人や公立大学へ異動した場合は、異動先で退職金を受取ることになります。
 勤務条件では、任期制・年俸制を選択した教員は、勤務時間の管理の弾力化を行うとしています。 大学管理本部は、制度の方向性として、制度を構築する上で留意した点は、@教員の活性化を促進して、働きやすい環境作りA優秀な教員を確保するために、外から優秀な先生が参加できる制度、B適切な人件費率を経営の観点から考慮し、人件費の高騰を押さえるとしています。また、教員組織を簡素化し、教授、准教授を中心とした基本組織とし、教授?助教授?助手という、これまでの主従関係は解消する、講座制は廃止する、と説明しました。

 組合は、こうした説明を受け、次のような質疑を管理本部との間で行いました。

組合 教授と准教授の割合は、どうなるのか。
回答 これまでの教授、助教授というポスト管理はしない。従って、教授が退職しないので、助教授が教授になれないということはなくなる。あくまでも、その人   の業績で判断する。教授と准教授の割合の想定はしていない。
組合 法人発足時に主任教授、教授、准教授とする審査はどこで行うのか。
回答 法人の中に組織を作って行うが、その方法は、これから検討したい。
組合 旧制度を選ぶか新制度を選ぶかは、法人発足時1回限りか。
回答 新制度を選んだ人は、旧制度に戻れないが、旧制度を選んだ人は、いつでも手は挙げられる。
組合 研究員の昇任の際の評価を「教育と研究」と言ったが、その両方で評価するのか。
回答 主として研究で評価する。
組合 旧制度の助手のところに、一部任期制とあるが。
回答 現在、経済学部や都市科学研究科の助手に任期制が採用されているという、意味だ。
組合 研究員から准教授、准教授から教授、教授から主任教授になるということは、昇進、昇格ではないということか。
回答 昇任ではあるが、准教授が教授に従属している関係ではない。そういう意味でのポスト管理はしない。研究者としては、同等だ。ただし、学校教育法上は、教授は教授相当、准教授は助教授相当として、申請や公募を行う。
組合 その資格審査を法人がやるということか。
回答 そうだ。
組合 新制度を選んだ場合は、勤務時間の弾力化とあるが、旧制度を選んだ場合の勤務時間はどうなるのか。
回答 これまでと同じ、9時―5時だ。多少は、これまでより厳しくなる。例えば、タイムレコーダーとか。
組合 職務給、業績給を割合で書いてあるが、これらは単なる加算ではないのか。
回答 人件費の原資を平均してみると、この割合になるという意味だ。
組合 年俸制の基本給に生計費とあるが、生計に足りうる額か?人勧の標準生計費を下回ることはないか。
回答 標準生計費ということを考慮して、決めたわけではない。生計費相当分は、5割の基本給で賄えると考えている。
組合 職員については、終身雇用制なのか。
回答 以前説明したように、派遣法に基づく派遣を考えている。 

問題点

@ 今回示された当局の考え方は、旧制度と新制度を選択できるという装いをこらして、任期制や年俸制を一方的、一律に導入したのではないように見せかけようとしています。しかし、当局の考え方に示された、「旧制度」は現行の制度とは、昇給や昇任の機会がない点など、明らかに異なっており、二つの新しい制度が示されたというべきです。そして、任期制や年俸制を選択しなければ、昇給や昇任ができないので、結果として、いずれは任期制や年俸制を選択しなければならないように誘導しています。任期制とは、任期がくれば、退職を迫られる制度で、これは、勤務条件というよりは、雇用の問題です。

A 当局のいう旧制度も新制度も、給与面からみて、明らかに現行の賃金体系を改悪するものです。当局の考え方について、論議するためには、具体的な給料モデルを示させる必要がありますが、最終的には、「適切な人件費率」によって、給料の総額を管理するのですから、誰かが多くとれば他は下がるのです。人件費の総額や教職員の人員計画、運営費交付金の総額およびそれらの推移の見込みなども、明らかにさせる必要があります。

B 業績給のための業績評価(単年度でできるももの業績の評価を行うと当局は説明しました)や昇任審査などの人事評価機関の構成や評価項目、評価基準などを明らかにさせる必要があります。また、こうしたことを地方独立行政法人法に規定されている、公立大学法人内の「教育研究審議機関」で行うとすれば、その構成は定款による定めが必要となります。

今回示された「新大学の教員の人事・給与制度(任期制・年俸制)の概要について」は、大幅な賃金・労働条件の改悪であり、地方独立行政法人への円滑な移行という、法の主旨や制度設計に反するものです。国立大学法人の場合は、大幅な勤務条件の変更は行われていません。また、地方公務員である現在の教員の給与について、昇任の際に厳格な審査が行われていますが、旧制度を選択した場合、どんなに業績をあげても昇給や昇任がないというのは、「一般地方独立行政法人の職員の給与は、その職員の勤務成績が考慮されるものでなければならない。」という、地方独立行政法人57条第1項にさえ、明らかに違反するものです。

当局は、教授―助教授―助手という「主従関係」をなくすとしていますが、新たに設ける「主任教授」が昇任や業績評価に深く関与することから、主任教授によるボス支配を生む恐れがあることも指摘しておかなければなりません。管理本部が「設置者権限」を振りかざす現在の検討体制のもとで、新制度発足時に設置者や理事長への忠誠度をひとつの基準として、主任教授の選考が行われるようなことがあるとすれは、その恐れは現実のものとなるでしょう。

さらに、大学管理本部が公表している新大学設立スケジュールによれば、来年2月から3月にかけて、「勤務条件を示して、就任承諾書の提出」を求めることになっています。しかし、ここで求める就任承諾書は、大学の設置認可のために文部科学省に提出するもので、任期を定めた教員ポストに就くための同意書とは本来、別のものです。大学管理本部のこれまでの手法から類推すると、同意書を兼ねた就任承諾書の提出を求めてくることも考えられます。しかし、これらは、まったく別個のものです。組合は、任期を定めた教員ポストに就くための同意書を兼ねた就任承諾書の提出などを強要することがないよう、管理本部に求めてゆく考えです。

最後に、組合は「ただいま、当局の考え方を聞いた。今後は、窓口で交渉のあり方を含めて整理したい」と発言し、当局は「提案がまとまり次第、協議したい」と発言しました。これに対し組合は、「協議を拒否するようなことはしないが、どういう場で、何を協議するか、窓口で整理したい」と発言し、この日の会見を終えました。

組合は、11月28日に都立大学で、12月には、他の3大学で「新大学の教員の人事・給与制度(任期制・年俸制)の概要について」の学習会を開催し、当局の考え方の問題点をさぐるとともに、みなさんからの疑問を解明要求にまとめて、管理本部に提出して、回答を求めることにしました。当局の示した考え方は、法人化後の勤務条件の一つの議論の素材です。みんなで、対案を含めて、おおいに論議しましょう。

組合の基本的視点は、どんな制度が採られるにせよ、現行を下回る人事・給与条件は許さないことです。