「都立の新しい大学の構想」を批判する

                                2003年10月31日

                                       112-0002 文京区小石川2-3-28-201                      03-3814-3971  fax 03-3814-2623 

     内容  はじめに‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥1

         第1 東京都立大学とは‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥2

         第2 都立4大学改革議論の経過‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥3

         第3 突然の「都立の新しい大学の構想」公表‥‥‥‥5

         第4 「都立の新しい大学の構想」の内容の問題点‥‥7

         おわりに‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥10

はじめに

 本年(2003年)8月1日、東京都の石原慎太郎都知事は、定例記者会見において、「都立の新しい大学の構想について」を突然公表した。これは、現行の東京都立大学、東京都立科学技術大学、東京都立保健科学大学、東京都立短期大学の4大学(以下、「都立4大学」という。)を廃止し、新大学を設立するというものである。従来、4大学を統合し新大学に移行する「東京都大学改革大綱」に基づき、都教育長、総務局長とともに4大学総長・学長などが参加する「大学改革推進会議」において改革の協議が続けられてきた。しかし、この「構想」はこれらの改革協議の積み重ねを全く反故にするものである。特に、石原都知事は、従来の「4大学統合・新大学への移行」ではなく「4大学の廃止・新大学の設立」であることを強調している。

だが、石原都知事が、いくら「4大学の廃止・新大学の設立」を強調しても、4大学の施設と研究成果等の人的物的資源を継承することを前提とするものであるから、その実質は「4大学統合・新大学への移行」に他ならない。石原都知事のねらいは、事実上現大学の関係者を排除する形で、新大学の設立準備を進めようとするものであり、産業活性化のための産学協同、財政効率化・大学の独立採算性という自由主義路線を強調するという「石原流政治的パフォーマンス」に過ぎない。

 自由法曹団東京支部は、石原「構想」の問題点を明らかにし、広範な方々の議論と行動を呼びかけるものである。

第1 東京都立4大学とは

  統廃合問題を考える前提として、都立4大学の現状を確認しておきたい。

  以下は、東京都庁及び各大学のホームページ上の記載をもとにまとめたものである。

  1 東京都立大学

(1)所在地は、東京都八王子市南大沢1−1 (京王相模原線南大沢駅)。

1991年4月に、目黒区内の旧キャンパスから移転した。

(2)1949年(昭和24年)の学制改革に伴い、旧制の都立高等学校、都立工業専門学校、都立理工専門学校、都立機械工業専門学校、都立化学工業専門学校 及び都立女子専門学校の6校を母体として、都内で唯一の公立の総合大学として発足した。

 現在の構成は、人文・法・経済・理・工の5学部21学科。開学当初から夜間課程(第二部・5年制)があり、昼間課程と同等の教育を実施してきた。

 大学院は、現在、人文科学、社会科学、理学、工学、都市科学の5研究科 修士課程28専攻・博士課程27専攻となっている。

 学生は、学部学生が約5,000名、大学院生が約1,500名在籍、専任教員(講師以上)は400名を超える。

 2 都立科学技術大学

(1)所在地は、東京都日野市旭が丘6−6 (JR中央線豊田駅)。

(2)1954年(昭和29年)4月に東京都立工業短期大学、1960年(昭和35年)4月に東京都立航空工業短期大学がそれぞれ開学。1972年(昭和47年4月)に、この2つの短大が統合されて東京都立工科短期大学が開学。同短大を1986年(昭和61年)4月に4年制に移行し4学科を設置して誕生したのが東京都立科学技術大学である。

 学部は工学部1学部4学科(機械システム工学、電子システム工学、航空宇宙工学、生産情報システム工学)で、学生数は、入学定員 180名、収容定員 720名。大学院は、工学研究科(博士前期・博士後期)に、システム基礎工学専攻、インテリジェントシステム専攻、航空宇宙工学専攻があり、入学定員 102名、収容定員216名。教員(講師以上)は、56名。

 3 都立保健科学大学

(1)所在地は、荒川区東尾久7−2−10 (都電荒川線熊野前駅)。

(2)前身である東京都立医療技術短期大学(1986年(昭和61年)4月開学)の教育・研究・人材を継承発展させ、平成10年4月に開学した。都内で唯一の総合的な保健医療系の4年制大学である。

 学部は保健科学部で、看護、理学療法、作業療法、放射線の4学科。入学定員 200名、収容定員 800名。大学院(保健科学研究科)(修士課程)は、看護学、理学療法学、作業療法学、放射線学の4専攻があり、入学定員 30名、収容定員60名。教員(講師以上)は、66名。

 看護教員養成講座もある。

 4 都立短期大学

(1)所在地は、

  昭島キャンパス:昭島市東町3−6−33 (JR青梅線西立川駅)

  晴海キャンパス:中央区晴海1−2−2 (有楽町線・大江戸線月島駅)。

(2)東京都立短期大学は5学科及び専攻科からなる総合短期大学である。

 本科に、文化国際、経営情報、経営情報、経営システム、都市生活、健康栄養の5学科があり、入学定員500名、収容定員1180名。専攻科は、都市生活学、健康栄養学の2専攻があり、入学定員10名、収容定員10名。教員(講師以上)は59名を数え、公立短大としては最も豊富な専任教員。

 都心部と多摩地区の両キャンパスにそれぞれ夜間課程を設置し、社会人入試を実施するほか、公開講座、社会人聴講生制度を開設している。

第2 都立4大学改革議論の経過

  以上のような内容をもった都立4大学を統廃合しようという議論は、いったいどこから始まったのか。

 今日の都立4大学の改変議論の特徴は、それが、石原都知事の主導によるものだということである。

 1999年春に誕生した石原都知事は、翌2000年1月以降、都立4大学の改革論議を急速に浮上させた。

 都知事は、マスコミや議会で、夜間部を廃止し私学に売却することもあり得る、大学から東京の教育を変える、産業活性化のための産学協同、財政効率化・大学の独立採算性などの発言を繰り返したのである。

 これらの発言により、都立4大学改変の動きがスタートした。

  2000年8月になると、都知事は、都庁内に「大学等改革担当」を設置。同年9月には、都知事自らが、荻上紘一都立大総長に対して、B類(夜間部)廃止を含む「改革案」を提示するに至る。

 同年12月に発表された東京都の「東京構想2000」は、大学の独立行政法人化を提言。2001年2月には、都大学等改革担当室が「東京都大学基本方針」を発表、4大学の「再編・統合」を打ち出した。

 2001年11月には、都大学管理本部から「東京都大学改革大綱」が発表された。ここでは、4大学を統合し、短大を廃止した上で、2005年4月に新しい大学を発足させることが提起された。具体的には、産学公連携センターの設置や都政との連携、独立行政法人化、教職員の非公務員化、法人の長と学長との分離、評議会・教授会権限の限定、任期制の検討などが盛り込まれた。

 この「大綱」が、本年7月までの都立4大学改変の動きの基調となるものであった。

  このように矢継ぎ早に進められた4大学改変の動きであるが、教職員・大学側は、知事からの圧力を感じつつ、2000年1月には都立大学が改革案策定のための新たな体制をつくり「東京都立大学改革計画2000」を策定するなど、大学側による主体的な改革構想の策定に向けての努力と4大学の連携の努力を続けた。

 こうした大学と教職員の懸命の努力が反映して、本年7月までの段階では、4大学の代表者を含めた議論の枠組みが確保はされていた。

 2001年3月に発足した大学改革推進会議は、都教育長、総務局長とともに4大学総長・学長などが参加するものであったし、2002年5月、前述の「東京都大学改革大綱」を受けて設置された都立新大学準備委員会には、教育長、大学管理本部長とともに、4大学総長・学長がメンバーとして参加してきたのである。

 新大学の設置準備は、この準備委員会のもとで推進された。その基本的骨格は、人文・法・経済・理・工・保健科学の6学部、人文科学研究科・社会科学研究科・理学研究科・工学研究科・都市科学研究科・保健科学研究科などの大学院に加え法科大学院・ビジネススクール・先端技術研究科などの設置、学部教育については保健科学研究科の2年生以上を除き南大沢キャンパス、教員定数515名(現4大学867名)、学生数1500名などとされていた。

 この間、4大学の教職員は、理事長・学長の分離や経営部門の権限の強さなどをはじめ、様ざまな問題点を批判しつつも、現在在籍する学生・院生への教育責任や将来入学してくる学生・院生にとって少しでもよい大学にしていくための準備作業に努力した。統合に伴う人員の再配置計画から教育課程編成、新しい学部教育体制に必要な時間割の検討から教室等の確保計画、研究室の再配置計画など、2005年4月発足に向けての膨大な作業にあたり、新大学計画は具体的に進み、最終段階を迎えていたのである。

 4 ところが、8月1日の石原都知事の会見は、こうした経過を完全に無視するものであった。

 後に詳しく検討するが、この会見を契機に、都立4大学改構想は、内容的にも手続的にも、4大学関係者との議論の枠組みを完全に踏み破ったものへと急転したのである。

第3 突然の「都立の新しい大学の構想」公表

 1 8月1日以降の経過

 8月1日の記者会見で石原都知事は、これまで検討・準備されてきたものとは学部構成・キャンパス配置など全く異なる構想を発表した。また東京都大学管理本部は、現大学総長・学長に、これまでの大学側も加わった検討組織は前日をもって廃止されたこと、大学管理本部側により大学代表者を加えない新たな検討組織を立ち上げることを通告した。

 その後、管理本部は、現在進めようとしていることは「大学の統合」や「新大学への移行」ではなく、「4大学の廃止」と「新大学の設立」であるとして、事実上現大学を排除する形で、新大学の設立準備を進めようとしている。

 その後、大学管理本部長からは、新大学設立本部のもとに教学準備委員会と経営準備室を設置し、教学準備委員会は西澤潤一座長(岩手県立大学学長)のもとに外部有識者と学内教員を任命することなどが明らかにされた。新「構想」を発表した背景として、a「大学改革大綱」発表以降に工業等制限法の廃止等の社会状況の変化があること、b「新大学の教育研究に関する検討会」の専門委員から東京全体の都市計画や研究所資源が視野に入っていない、都心部が計画に組み入れられていない、経営的視点が欠けている、学生や卒業生の受け入れ先の視点がない、国際性が貧弱などの問題点が指摘されたこと、c都議会自民党から大綱への厳しい意見があることなどが、あげられている。

  2 「都立の新しい大学の構想」の内容

 「都立の新しい大学の構想について」では、「大都市を活かした教育の実現」などがうたわれ、南大沢キャンパスに都市教養学部と都市環境学部、日野キャンパス(現科学技術大)にシステムデザイン学部、荒川キャンパス(現保健科学大)に保健科学部を配置するとともに全寮制(50人)の「東京塾」を設置するなど、これまで設立準備委員会で検討・準備されてきたものとは全く異なる内容になっている(詳しくは、東京都ホームページ・報道発表2003年8月1日付)。

(1)現代に適合した人間教育のための全寮制「東京塾(仮称)」

 「塾長と学生との交流・対話を通じて、人格形成と個性・独創性を育む。」「アジアの留学生との交流による異文化理解」をはかる。「塾長予定者を選任して、具体的な設計を行う。」としている。

(2)大都市の特色を活かした教育の実現

 「都市の文明」を学ぶ教養教育として「都市教養学部(仮称)」を設置し、都市文化、都市経済、都市工学など「都市の文明」を全学部の学生に教育するとし、大都市の課題に対応した学部等の再編、新学部として「都市環境学部、システムデザイン学部、保健福祉学部」の設置がうたわれている。

(3)大都市東京全体がキャンパス 都心方面へのキャンパス展開

 「都市再生、産業活性化を視野に入れた都心方面へのキャンパス展開」を検討する、「大都市をキャンパスにした現場重視の体験型学習の導入」「都政等の最前線や東京に集積する文化芸術施設での現場実習」などがうたわれている。

(4)「選択と評価」による新しい教育システムの導入

 「学生がキャリア形成を考えて、自由にカリキュラムを設計」するとし、他大学等で取得した単位を認定・登録する「単位バンク(仮称)」の設置、成績、卒業判定への「外部や社会による評価の導入」がうたわれている。

(5)教員組織・人事制度の改革

 「教員組織の簡素化、任期制・年俸制の導入と業績主義の徹底」がうたわれている。

第4 「都立の新しい大学の構想」の内容の問題点

 「都立の新しい大学の構想」には、その手続においても内容においても多くの重大な問題がある。

 1 都民の視点が欠落し内容の検討も不足

 都立4大学は都民の共有財産であり、そのあり方は広く都民参加による議論や検討が不可欠である。しかし今回の「構想」は、大学関係者が参加していた検討組織と別個に秘密裏に準備したものを突然公表したものであり、都民的論議がまったく欠落している。

 「構想」の内容としても、「都市教養学部」や「都市環境学部」など、従来の学問との関係が明らかではない学部の新設がうたわれる一方、例えば現在の人文学部について、日本文学・中国文学・英文学独文学・仏文学など文学系の学科・専攻がなくなり、さらに哲学・史学・教育学なども失われる可能性がある。法科大学院を準備しているにもかかわらず法学部は構想にはない。学部構想は示されたが、大学院については構成や設置時期すら不明である。

 こうした中で、将来入学する学生・院生への教育はおろか、現在在籍する学生・院生の教育に卒業まで責任の持てる体制が確保できるのかどうかも全く不明である。

 2 都政のあり方としても問題

 今回の「構想」は、都政のあり方としても重大な問題を含んでいる。「大都市東京全体がキャンパス」というが、都立4大学はそれぞれの経過から現在のの所在地にキャンパスを有するに至っており、場所の移転だけでも相当な経費・労力を要する。

 例えば、都立大学は、1991年に現在の八王子市南大沢のキャンパスに移転し、まだ10年余である。都立科学技術大学は、1990年に博士課程が設置され、2001年4月に大学院改編が行われたばかりである。都立保健科学大学に至っては、2002年4月の大学院設置から1年しか経っていない。にもかかわらず、「新しい大学」の名の下に、膨大な経費と労力を要する移転と組織改編を行うのは、全くの無駄としかいいようがない。

 「都市再生」の名で、再開発と関連づけて大学・学部の設置が利用されるおそれも大きい。

 思い返せば、2002年7月19日に閣議決定された政府の「都市再生基本方針」は、「都市再生施策の重点分野」の「具体的な施策例」として、「大学など高等教育機関等と各種都市機能の連携・一体化」と挙げていた。また、今年3月に、大林組、鹿島建設、清水建設、大成建設、竹中工務店のゼネコン各社などを参加企業として発表された「都市再生特別地区の活用手法について」(都市再生特別地区の活用手法に関する調査研究会)は、「『都市再生への貢献』として評価の対象となるのではないかという例」として、「経済再生への貢献・・・社会人向け交流施設や教育施設の設置(大学、ビジネススクール等)」を挙げている。

 もともと、「都市再生」推進勢力は、その政策の中で、大学の設置を位置づけていたのである。

 いま、石原都政が推進する「都市再生」は、都心を中心にした民間オフィスの大量供給によって、都心5区の大型新築ビルの空室率が約3割に達するなど、深刻な矛盾を抱えている。「都市再生」の目玉とされる臨海副都心開発は、実質約270億円前後の赤字といわれる。

 石原都政は、こうした「都市再生」路線の破綻の穴埋めに都立4大学の統廃合を利用する衝動を強めているといえる。

 そして、先述の大学管理本部長の発言−−新「構想」発表の背景には、「新大学の教育研究に関する検討会」の専門委員から東京全体の都市計画や研究所資源が視野に入っていない、都心部が計画に組み入れられていない、経営的視点が欠けている等の指摘があったとの発言−−は、今回の「構想」の背景に「都市再生」があることを疑わせるに充分である。

 いずれにせよ、「構想」は、現在の資源を十分に活用することなく浪費的な投資となる危険性が大きい。

 3 大学の自治に反する強権的手法

 大学は「学術の中心」であり、真理の探究を通じて、国民生活に貢献する責務をもつ。そして、学問研究も、教育も、自由かつ自主的におこなわれてこそ、その役割を果たすことができる。このことから、憲法は「学問の自由」(第23条)を定め、これを守るために、大学の自治が認められている。

 この大学の自治の法律的な保障の一つとして、学校教育法第59条は、「大学には、重要な事項を審議するため、教授会を置かなければならない。」と規定する。

 東京都立大学条例も、第9条第1項において「都立大学の学部及び研究科に教授会を置く。」とし、同条第4項において、「学部の教授会は、当該学部における次に掲げる事項を審議する。

 一 教育公務員特例法の規定により、その権限に属すること。

 二 学科、専攻、学科目、講座及び授業科目の種類及び編成に関すること。

 三 学生の入学、退学、休学その他の身分に関する重要なこと。

 四 学位の授与に関すること。

 五 前各号のほか、当該学部の教育研究及び運営に関する重要なこと。」

と規定する。

 さらに、同条例は、総長、学部長、所長、研究科長、事務局長、学部及び研究科の教授会で選出する教授十名、そのほか都立大学所属職員のうちから総長が必要と認める者からなる評議会を置くことを規定(第8条)。この評議会が、「一 教育公務員特例法(昭和二十四年法律第一号)の規定により、その権限に   属すること。

 二 学則その他学内諸規程の制定改廃に関すること。

 三 学部、学科、研究所及び研究科の設置及び廃止に関すること。

 四 学部その他の機関の連絡調整に関すること。

 五 前各号のほか、都立大学の運営に関する重要なこと。」

を審議する旨定めている。

 すなわち、学校教育法も都立大学条例も、教授会を中心とした大学の自主的運営を定めており、「大学の運営に関する重要なこと」は大学が審議することとしているのである。(他の3大学の条例も、同様の教授会の権限を定めている)。そして、大学の統合・移行(「4大学廃止」は石原流パフォーマンスに過ぎない)が、「大学の運営に関する重要なこと」に該当することは、誰の目にも明らかである。

 ところが、今回の「構想」は、その経過から明らかなように、都知事がその権限により大学に対して圧力を加え、大学関係者の意向を排除する形で「統合・移行」しようとするものであり、大学の自治と学問の自由を完全に踏みにじるものである。

 「構想」は、その内容をとっても、単位認定を「外部」の評価に委ねるなど、教授会を中心とする大学の自治の理念を欠落させている。

 4 都立4大学の教職員の身分・雇用問題

 都立4大学の教職員の雇用・身分については、実質的に4大学の人的物的資源を受け継ぎ新大学に移行する「4大学の統合・新大学への移行」であるから、原則的に教職員の身分は承継される。石原都知事の「4大学の廃止・新大学の設立」は石原流政治的パフォーマンスに過ぎない。

 「構想」は地方独立行政法人の設立を念頭に置いているが、この法律では、地方自治体がおこなっている業務を引き継ぐ地方独立行政法人を「移行型地方独立法人」として、自治体で法人に移管される業務を行なっている職員は、別に辞令が発せられない限り当然に地方独立法人の職員になるとされている(59条)。原則として、身分が引き継がれるのである。

参議院における付帯決議も身分が引き継がれることを前提に「地方独立行政法人への移行等に際しては、雇用問題、労働条件について配慮し、関係職員団体又は関係労働組合と十分な意思疎通が行われるよう、必要な助言等を行うこと」「公立大学法人の設立に関しては、地方公共団体による定款の作成、総務大臣及び文部科学大臣等の認可等に際し、憲法が保障する学問の自由と大学の自治を侵すことがないよう、大学の自主性・自律性を最大限発揮しうるための必要な措置を講ずること」(平成15年7月1日参議院総務委員会)とされている。

 雇用問題、労働条件については、関係職員団体との十分な意思疎通を行った上、学問の自由と大学の自治を侵すことがないような措置を講ずべきである。

5 おわりに

 以上様々な角度から今回の「新しい大学の構想」を批判してきたが、当面東京都と大学管理本部は次の点に留意すべきである。

 1 都民の共有財産にふさわしく、現在の検討内容を都民に公開し、都民の  意見を広く集めて議論をすべきである。

 2 キャンパスの廃止と新設等について、浪費的な費用を要することのない  よう慎重にすべきである。

 3 教授会を中心とする大学の自治の原則に則り、教授会を基礎に全大学人  に情報をすべて公開し、十分な民主的な議論をするべきである。

 4 地方独立行政法人法の付帯決議に沿って雇用問題に十分に配慮するべき  である。

                               以 上