意見書
 

東京都の「新大学」における任期制の導入に関する
弁護団の意見書(意見書その2) 
2004年 2月 9日
東京都立大学・短期大学教職員組合弁護団
弁護士 尾林 芳匡 
弁護士 松尾 文彦
弁護士 牛久保 秀樹
弁護士 江森 民夫
 

第1 はじめに

第2 東京都の「任期制」「年俸制」の一方的な導入
1 はじめに
2 管理本部案の概要
3 実質は「任期制」の押しつけ
4 「任期制」の一方的導入は違法である
(1)独立行政法人と身分保障、労働条件保障
(2)学問の自由と大学の自治保障と任期制法

第3「任期制」の一方的な導入は違法である。
1 身分保障の否定、労働条件の一方的な不利益変更は許されない
(1)教員の身分保障を否定する「任期制」は違法
(2)労働条件の一方的な切り下げである「任期制」の導入は違法
2 労使協議を十分経ない「任期制」の導入は違法
3 「任期制」一方的な導入の違法性

第4 「任期制法」の趣旨等と「任期制」の一方的な導入の違法性
1 「任期制法」と「新大学」への「任期制」の一方的導入の違法性
2 任期制法と教員の身分保障の尊重の原則
3 すべての職種への任期制の導入は違法である
(1)任期制法と「任期制」を導入できる教員の職種の限定
(2)任期制法による教員の職種の限定
4 現職の教員に対し任期のある身分への変更を強制することはできない
(1)今回の東京都の採用する「任期制」は事実上身分移行を強制するものである
(2)「任期制」教員への移行の同意の強制は任期制法に違反する
5 十分な労使交渉を抜きに一方的に導入することは違法である
6 任期制法の趣旨からも東京都の措置は違法である
7 労働基準法14条の有期雇用契約と教員の「任期制」

第5 「任期制」の一方的導入及び同意手続は違法

第6 任期制に対する同意手続きの問題点
1 「任期制」同意の強制は違法
2 「就任承諾書」の法的性質と「同意書」


第1 はじめに
 私たち東京都立大学・短期大学教職員組合弁護団は、2003年10月28日に、東京都の「新大学構想」に関する弁護団意見書を発表した。
 当弁護団はこの意見書の中で、東京都の「新大学」設置が旧大学から独立行政法人への移行措置であり、当然現教職員の身分は包括的に移行されるのであり、教員の身分保障と労働条件保障がされるべきであるにもかかわらず、東京都が大学の廃止と新大学の設立であると言明して、教職員の身分保障と労働条件保障が当然に認められる訳ではないかのごとく主張していることが明らかに誤りであることを明らかにしてきた。
 また大学の自治の原則や地方独立行政法人法の趣旨からいって、新しい大学の移行にあたっては大学の自立性や自主性が最大限に尊重されなければならないのに、東京都の「新大学構想」は大学の自立性や自主性を真っ向から否定したもので、その意味でも今回の東京都の「新大学構想」の実現方法が違法なものであることを明らかにした。
 ところで東京都は平成15年11月に新大学の教員について突然「任期制」を導入すること、また現在在職する教員に対しては任期のない教員の地位を選択できるが給与は昇給せずまた昇進はないこととすることを提示している。
 そこで当弁護団は今回の東京都の新たな「任期制」の導入が、事実上現職の教員に対し「任期制」教員への身分移行を強要するものであり、こうした措置があらゆる意味で違法なものであること、そしてこうした「任期制」教員への移行の同意、不同意を求めることが違法であることを明らかにする。
 また、こうした東京都の違法な選択の要求に応えないからといって、現職の教員の身分保障と労働条件保障を否定することはできないことを明らかにする。

第2 東京都の「任期制」「年俸制」の一方的な導入
1 はじめに
 2003年11月に東京都大学管理本部は突然教職員組合に対し、「新大学の教員の人事・給与制度(任期制・年棒制)の概要について」(以下、「管理本部案」という。)を提示した。そして、その後の都立大学等の「教員」募集にあたり「任期制」を導入することを予定していることを公然と述べている。
 しかし、このような東京都による「任期制」の一方的な導入は、独立行政法人への移行にあたり、当然守られるべき身分保障や労働条件保障を真っ向から否定するものであり違法なものであることは明らかである。
 またこのような労働条件を教員に押しつけることは労働条件の一方的な切り下げであることなどから違法なものであることは明らかである。

2 管理本部案の概要
 管理本部案は、現職の個々の教員が、「旧制度」と「新制度」の選択をするとするものである。
 そして、「旧制度」を選択すると、「任期制」には移行しないが、「現給据置き、昇任不可」という処遇となる。他方、「新制度」を選択すると任期制・年俸制が適用される。
 任期は、「研究員(仮称)」任期3年(2年延長可)、「准教授」任期5年(1回のみ再任可)、「教授」任期5年(再任可)、「主任教授」(定年制:65歳)である。そして「年棒制の構成」は基本給5割、職務給3割、業績給2割とされている。
 また、管理本部からの組合に対する説明によると「旧制度」から「新制度」への移行はいつでも選択できるが、一度「新制度」を選択すると「旧制度」には戻れないとのことである。

3 実質は「任期制」の押しつけ
 管理本部案は「旧制度」と「新制度」の選択制を標榜している。
 これは、昨年8月1日に石原都知事が突如発表した「都立の新しい大学の構想について」の別紙1「新しい大学の構想」が、「教員制度・人事制度の改革」の見出しのもと、「任期制・年俸制の導入と業績主義の徹底」のみをうたっていたのとは異なる装いである。
 ここには、前記「構想」以降の都の一連の姿勢に対する大学人と世論の厳しい批判を、都が全く無視することができない状況となっていることを看て取ることができる。
 しかし、他方、前項で述べたとおり、任期制を選択しない(管理本部案に従えば「旧制度」を選択する)場合には、「現給据置き、昇任不可」という処遇に甘んじることになるのである。これは、実際には、およそ選択肢の名に値するものではない。管理本部案は明らかに「任期制」の押しつけである。
 東京都は教職員組合の解明要求に対し、現職の教員が「旧制度」を選択した場合も、現在支給されている賃金を減額されないのだから、「旧制度」の選択の提案は労働条件の不利益変更に当たらないなどと主張している。
しかし、地方公務員の場合には「昇給」や「昇格」の権利が法的に保障されている。
 東京都の条例では「良好な成績」をおさめている場合には定期昇給の機会があると規定されているが、運用上は原則として定期昇給の機会があったのである。また昇格の機会は当然保障され、昇格できない身分の教員などは存在しなかったのである。
 その意味で今回東京都が提案している「旧制度」の選択の提案内容は、労働条件の不利益変更に他ならないのである。

 「任期制」の一方的導入は違法である

(1)独立行政法人と身分保障、労働条件保障
 当弁護団がすでに明らかにしたように、公立大学から地方独立行政法人への移行にあたって、現職の教員の身分は当然包括的に移行するのであり、現在の身分及び労働条件が当然に承継されるものであって、身分移行にあたり教員の身分保障を否定したり、労働条件を一方的に切り下げたりすることは許されない。
 その意味で今回の「任期制」の一方的導入は違法なものといわなければならない。」

(2)学問の自由と大学の自治保障と任期制法
 ところで、東京都の採用する大学教員に関する任期制は、「大学の教員等の任期に関する法律」(1997年6月6日成立、同年8月25日施行。以下、「任期制法」という。)の規定の趣旨にもとづいて導入されたものと考えられる。
 しかし、「任期制法」の趣旨にもとづいて、今回のような東京都の「任期制」の導入を適法とすることはできない。
 まず、同法はその制定当時から、大学教員等の任期制に対しては、学問の自由と大学自治の観点からの厳しい批判がなされていることに留意すべきである。
 日本国憲法第23条は学問の自由を定めている。そして、大学教員の学問の自由は、時の権力及び大学の設置者が、その価値判断に反する教員の地位を奪うことによって脅かされる。そこで、大学においては、学問の自由の制度的な保障として大学自治が認められ、教員人事権をはじめとする重要事項が教授会の権限とされ(学校教育法第59条)、教員の身分保障がなされてきたのである。
 こうした大学教員の身分保障の重要性は国際的にも承認されている。ユネスコ第29回総会が採択した「高等教育の教育職員の地位に関する勧告」(1997年11月11日採択)は、大学教員の終身在職権(テニュア)の制度は「学問の自由を擁護し、専断的決定に対する主要な手続き的保障」(第45項)であり、「この専門職における雇用の保障は」「終身在職権またはそれと同等の地位をふくんで、それば高等教育の教育職員の利益だけでなく、高等教育そのものの利益にとって不可欠なこととして擁護されなければならない」(第46項)と述べている。
 任期制は、その意味でこの大学教員の身分保障を奪うものであり、学問の自由と大学の自治を脅かすおそれのあるものであり、安易な導入は許されないのである。
 また後に述べるように、現行の任期制法の内容や成立経過からいっても、今回のような「任期制」の一律導入は到底認められるものではない。
 以下東京都の「任期制」に関する提示の内容の違法性について詳細に明らかにする。

第3「任期制」の一方的な導入は違法である
1 身分保障の否定、労働条件の一方的な不利益変更は許されない
 今回の都立4大学の統廃合が、都が固執するような現行大学の廃止と新大学の設置ではなく、移行であることは、当弁護団が本年10月28日付「意見書」で詳細に明らかにしたところである。
 そして、大学が移行する以上、現行都立4大学に勤務する教職員の身分もまた新大学に承継されるものであり、雇用継続を否定することは許されず、また労働条件を一方的に切り下げることは許されないことも同「意見書」で明らかにした。

(1)教員の身分保障を否定する「任期制」は違法
 これを前提に考えると、今回管理本部が示した任期制は、従来は定年までの終身雇用で昇級・昇任が行われてきた現行都立4大学の教員の身分が、「旧制度」選択の場合定年までの終身雇用であっても昇級・昇任の可能性を奪われ、「新制度」を選択した場合一定期間の雇用しか保障されない身分に変更され、定期的に首切りの危険にされるものである。
 だとすれば、こうした新たな身分への教員の移行措置は、独立行政法人設立にともなって当然東京都が果たすべき包括的な身分移行措置(身分保障と労働条件保障)を事実上否定するものであり違法であるというべきである。
 公立大学の地方独立法人への移行は、国立大学の国立大学法人への移行と同一の趣旨で行われるが、国立大学法人法案等6法案に対する参院付帯決議は、教員の身分保障と任期制の導入に関し次のような付帯決議をなしている。
 「二十、職員の身分が非公務員とされることによる勤務条件等の整備については、教育研究の特性に配意し、適切に行われるよう努めること。また、大学の教員等の任期に関する法律の運用に当たっては、選択的限定的任期制という法の趣旨を踏まえ、教育研究の進展に資するよう配慮するとともに、教員等の身分保障に十分留意すること。」(国立大学法人法案、独立行政法人国立高等専門学校機構法案、独立行政法人大学評価・学位授与機構法案、独立行政法人国立大学財務・経営センター法案、独立行政法人メディア教育開発センター法案及び国立大学法人法等の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律案に対する附帯決議――2003年7月8日参議院文教科学委員会)

(2)労働条件の一方的な切り下げである「任期制」の導入は違法
 またこのような任期のある教員への身分変更あるいは、昇給・昇格のない任期のない教員への身分移行は労働条件の一方的な不利益変更にほかならない。
 このような勤務条件の不利益変更を一方的に行うことが許されないことは、「新たな就業規則の作成又は変更によって、既得の権利を奪い、労働者に不利益な労働条件を一方的に課することは、原則として、許されない」との最高裁判例によって明らかである。(最高裁大法廷昭和43年12月25日)

2 労使協議を十分経ない「任期制」の導入は違法
 また地方独立行政法人法成立の際の参院付帯決議は「地方独立行政法人への移行等に際しては、雇用問題、労働条件について配慮し、関係職員団体又は関係労働組合と十分な意思疎通が行われるよう、必要な助言等を行うこと。」とのべている。
 独立行政法人への移行にあたっては、勤務条件は基本的に維持されるべきものであって、職員団体・労働組合と十分な協議をつくさないまま一方的にこれを不利益に変更することは許されない。
 したがって東京都が労働組合との十分な協議もなく、今回の提示した「任期制」を強行することは違法である

3 「任期制」一方的な導入の違法性
 以上のとおり、今回のような東京都の「任期制」の一方的な導入は、教員の包括的身分移行(身分保障と労働条件保障)を否定する点でも、労働条件を一方的に切り下げる点でも違法なものである。
 また東京都が労使協議を経ずに一方的に導入することも到底許されないといえるのである。

第4 「任期制法」の趣旨等と「任期制」の一方的な導入の違法性
1 「任期制法」と「新大学」への「任期制」の一方的導入の違法性
 また、今回東京都が導入しようとする教員の「任期制」は先に述べた大学の任期制法の趣旨にもとづき導入したものといわざるを得ないが、今回の東京都の「任期制」の導入は任期制法にも違反するものである。
 任期制法は従来から、私立大学の教員にも公立大学の教員にも適用があったが、今回大学の独立行政法人への公立大学の教員の身分が非公務員となることから、従来の私立大学の教員と同じ条件で適用されることとなる。
 ところで先に述べたように任期制法にもとづく教員の「任期制」はそれ自体大学の教員の身分保障を否定するおそれのある法律である。
 その点をおくとしても、任期制法は「任期制」の導入の条件を限定し、任期のない教員に対する身分変更を禁止するなどしている。また法律の制定にあたっては、教員の身分保障の尊重が「任期制」導入の前提であることや、教員組合との十分な協議が必要であることなどが確認されている。
 その意味で今回の東京都の「任期制」の一方的導入は任期制法にも違反する違法なものというべきである。
 以下任期制法の解釈について国会での審議経過等も引用しながら明らかにし、東京都が一方的に導入しようとしている「任期制」が、任期制法に違反するものであることを明らかにする。

2 任期制法と教員の身分保障の尊重の原則
 任期法1条の規定は法の目的を「多様な知識または経験を有する教員相互の学問的交流を不断に行われることを」と規定し、大学の学問研究の発展を目的とすることを当然の前提としている。その意味で任期制法にもとづく任期制の導入にあたり教員の身分保障が尊重されるべきことは当然である。
 衆議院、参議院では任期制法の決議にあたり「学問の自由および大学の自治尊重を担保としている教員の身分保障の精神が損なわれないよう十分配慮する」との付帯決議がなされている。
 ところで今回の東京都の「任期制」導入は、すべての教員に対し「任期制」」を事実上押しつけ任期制に賛成できないものは事実上退職を余儀なくするものであるといえる。しかしこのような「任期制」の導入は任期制法の趣旨に反している。
 なお、国会での答弁でも以下のとおり、教員の身分保障を否定する意味での「任期制」の導入は違法であると述べられている。
 「教員を解雇するために任期制が乱用されるというようなことはあってはならないわけでございます。」(衆議院文教委員会平成9年5月16日雨宮政府委員)
 「単に教員を解雇するとか、あるいは大学の経営上のリストラのために任期制を乱用するというようなことはあってはならない」「単なる経営上の問題のためにこの任期制が乱用されるということがあってはならないことは、先ほど申し上げたとおりでございます。」(参議院文教委員会平成9年6月3日雨宮政府委員)

3 すべての職種への任期制の導入は違法である

(1)任期制法と「任期制」を導入できる教員の職種の限定
 東京都の導入する「任期制」はすべの教員を対象としている。しかし、任期制法の第4条は以下のとおり任期制を導入できる教員の職務内容を次の3つ場合に限定しており、東京都のように無限定に「任期制」を導入することは任期制法に違反している。
 「一 先端的、学術的又は総合的な教育研究であることその他の当該教育組織で行われる教育研究の分野又は方法の特性にかんがみ、多様な人材の確保が特に求められる教育研究組織の職に就けるとき。
  二 助手の職で自ら研究目標を定めて研究を行うことをその職務の主たる内容とするものに就けるとき。
  三 大学が定め又は参画する特定の計画に基づき期間を定めて教育研究を行う職に就けるとき。」

(2)任期制法による教員の職種の限定
 任期制法4条の3要件が任期制を導入できる教員を限定する規定であり、東京都の提示する「任期制」のようにすべての教員に「任期制」を導入することが法に違反することは、以下に引用する国会での政府答弁でも明らかである。

1)全体の制度の趣旨
 「大学の自由な設定の仕方というようなものも許されていいのではないかということも考えられなくはないのですけれども、例えば国公立大学の場合ですと公務員制度のもとにおきます教職員の身分保障という観点から、やはりここはきちっと限定的に書くべきであるということで、一号から一、二、三と三つに限定して書いたつもりであります」(衆議院文教委員会平成9年5月16日雨宮政府委員)

2)各号の内容について
 「(一号に関して)」『多様な人材の確保が特に求められる教育研究組織の職務に就けるとき。』というように限定いたしまして、そういう限定のもとでそれぞれの大学がこの条項の趣旨に応じて判断してその職を指定すると、こういう仕組みを考えたわけでございます。」
「(二号に関して)たくさんの職務を現実の問題として抱えております助手もすべてについて、今回の公務員制度の例外措置とを適用することが適当かどうかということになってきた場合に、やはり教員と匹敵するほどの、教授、助教授らと匹敵するほどの例外的な扱いを行う必要なほどの位置づけになるような助手、やはりそういうものに限定すべきでなかろうかということで、今回の法律では『自ら研究目標を定めて』云々、それを主たる職務にするそういう職務に限定した、」(衆議院文教委員会平成9年5月21日雨宮政府委員)

4 現職の教員に対し任期のある身分への変更を強制することはできない

(1)今回の東京都の採用する「任期制」は事実上身分移行を強制するものである
 今回の東京都の「任期制」の導入は「選択制」といいながら、任期制を選択しない教員の労働条件を不利益に扱うもので、「任期制」の同意の強制にあたることはすでに明らかにしたところである。

(2)「任期制」教員への移行の同意の強制は任期制法に違反する
 ところで、従来任期のなかった教員が任期付きの教員になることは明らかに身分の変更にあたるものであり、仮に新たに「任期制」を導入したからといって、これを任期のない教員に強制することは許されない。  任期制法第4条2項は、国公立の教員を任期制教員として任命するためには「当該任用される者の同意を得なければばらない」としており、すでに任用されている教員を任期制の教員に一方的に任用することを禁止している。
 また任期制法第5条1項は私立大学の教員に関し「労働契約において任期を定めることができる」と規定しており、本人同意もなく、一方的に任期制の教員に任命ないし配置換えすることを禁止している。
 したがって今回の東京都の「任期制」の一方的な導入のように、現職の教員に任期制」の同意を強制することは任期制法に違反する。
 この点は以下のとおりの国会審議での答弁の内容からも明らかである。
 「最終的にはその任期を付されたポストにつくかどうかということについては本人の同意を得て行うということでございます。本人の意に反して無理やりに任期を付されたポストにつかされるとか、あるいは職をやめさせられるということは・・・・そういうようにはこの法案ではできておらないということでございます。」(衆議院文教委員会平成9年5月29日雨宮政府委員)
 「任期制の導入に関連いたしまして、その任期を付したポストへの任用という場面におきましては、本人の同意を得て行うということが法律上明記されているわけでございます。したがって本人の意に反してそのような任用行為がなされるということは考えられないというように思うわけでございますし、また、それを本人が受けないようなときに、そのことによって何らかの不利益な取り扱いがあるというようなことも、もちろんあってはならないことだというように考えております。」(衆議院文教委員会平成9年5月29日雨宮政府委員)

5 十分な労使交渉を抜きに一方的に導入することは違法である
 教員に任期をつけるということは当然労働条件にかかわることで労使交渉の対象となることは明らかである。
 公務員の場合、法律上労働基本権が制限されており、そのかかわりで国公立大学では導入自体は交渉事項ではないが導入に伴う労働条件は交渉事項であるとされてきたが、私立大学では導入自体が交渉事項であることは当然のことであった。
 この点について参議院の法案決議にあたり「私立大学における任期制の実施については、労働協約事項の対象となることを認識し、制度の円滑な運用を努めること」との付帯決議がなされ団体交渉の促進が奨励されている。
 今回設立される新大学は独立行政法人であり、教員には労働組合法上の団体交渉権が保障される。したがって導入を含めて労使交渉が前提となり、十分な交渉なしの導入は実質的な団交拒否となり違法であるといえる。
 私立大学の「任期制」導入と団体交渉の必要性について国会においては以下のとおり答弁されている。
 「私立大学におきまして任期制を導入することは、教員の労働条件にかかわる事項と考えられるわけでございまして、団体交渉事項に該当するというように考えるわけでございます。」(衆議院文教委員会平成9年5月16日雨宮政府委員)
 一方公務員の場合も、前記のように交渉事項に制限があることを前提としつつも、十分な話し合いは必要とされてきたことにも留意する必要がある。
「(任期制の導入について)こういう基本的な人事制度がどう円滑に機能するかということがやはり大きな問題であるわけでございます。したがって、教員の勤務条件に密接にかかわる事柄も出てくるということもございますし、任期制を円滑に実施するという観点に立って、交渉というような形にこだわらなくても日ごろからいろんな形での大学当局と職員団体あるいは職員との意志疎通を図っておくということはそれなりに重要なことではないかというように考えております。」(衆議院文教委員会平成9年5月29日雨宮政府委員)
 こうした任期制法の解釈から、東京都が十分な労使交渉も経ずに「任期制」を一方的に強行するならば、任期制法にも違反することは明らかである。

6 任期制法の趣旨からも東京都の措置は違法である
 以上のとおり任期制の法律の趣旨からいっても今回の東京都の一方的な導入は違法である。

7 労働基準法14条の有期雇用契約と教員の「任期制」
 ところで、労働基準法14条には、労働契約の契約期間の上限が定められている。
 そこでこの法律の定める有期雇用契約にもとづく「任期制」と、任期制法にもとづく「任期制」との関係が問題になりうるといえる。
 しかし以下のとおり今回東京都の導入しようとしている教員の「任期制」を労働基準法にもとづいて導入することはできない。
 労働基準法14条は平成15年に法改正がされ、改正規定は平成16年1月1日から施行される。そして同条でかつて規定されていた原則1年例外3年の有期雇用期間は、今回の法改正で原則3年例外5年と改正されている。
 ところで労働基準法14条で例外とされている5年の有期雇用契約は、「専門的な知識、技術または経験(以下において「専門的知識技術等」という。)であって高度のものとして厚生大臣の定める基準に該当する専門的知識等を有する労働者(当該高度の専門的知識等を必要とする業務に就く者に限る。)との間に締結される労働契約」に限って認められているものである。
 そして、「労働基準法14条に第1項第1号の規定に基づき厚生労働大臣が定める基準(特例基準)」(平成15年10月22日厚労告第356号)によれば、博士号を取得している教員や、5年以上の経験を持って大学教員となり年収1075万円以上の年収である教員に限り5年の有期契約が締結できることになっているのである。
 したがって今回の東京都の提案のように、上記労働基準法による特例に該当する場合に限定せず、すべての教員(教授、准教授)に5年の任期制を導入することは、労働基準法14条に明白に違反するものである。
 また大学の教員に関する任期制を規定する任期制法は労働基準法14条の特別規定と理解することができる。前述したように、任期制法は大学の身分保障の観点から任期制法4条に規定する3つの類型の教員にしか有期雇用契約は締結できないものと規定しており、大学の教員については労働基準法14条の規定する条件に加えて、前記3類型の教員にしか有期雇用契約は締結できないと解釈すべきなのである。したがってその意味でも今回のような東京都の「任期制」の導入のように、職務を限定せずに「任期制」をすべての教員に導入することは違法である。

第5 「任期制」の一方的導入及び同意手続は違法
 以上述べたとおり、今回東京都が提案している新たな「任期制」の提案及び「旧制度」の選択の提案は違法な措置であることが明らかである。
 東京都は大学の独立行政法人の発足にあたり、現職の教員を現在の労働条件で当然身分を包括的に承継する義務があるのであって、「任期制」の教員になるかそうでない教員になるかの選択を求め、「旧制度」を選択した場合昇給と昇格を否定することは違法なものであることは明らかである。
 また、こうした違法な書面の提出がないからといって、現職の教員を現在の労働条件で承継することを否定することはできないのである。

第6 任期制に対する同意手続きの問題点
1 「任期制」同意の強制は違法
 今回の管理本部案が「任期制」の強制的な押しつけであることはすでに述べたところである。
 ところで現行の教員に対し「任期制」教員への移行の同意を求めることはそれ自体違法であることはすでに述べてきたところである。
 しかしこれまでの東京都の態度、例えば昨年10月段階で出された「同意書」問題などから、あらゆる手段で「任期制」の同意を求めてくる可能性がある。
 そこで、今後想定される新大学への「就任承諾書」と「任期制」への同意手続きについての法的な見解をあらかじめ述べることとする。

2 「就任承諾書」の法的性質と「同意書」
 就任承諾書とは大学認可申請の実務に用いる書類であり、教員の勤務条件を定めるために用いられるものではない。
 すなわち、就任承諾書は認可申請の際に提出するもので、内容は「私は、○○大学設置認可の上は、○○学部○○学科○○担当の教員として、   年   月   日から就任することを承諾します。」という文言であり、印は、新任(調書提出時に現大学に在籍していない者)は実印で、現員は実印でなくてよいとされている。(大学の設置等の認可申請に係る書類の様式及び提出部数(平成15年3月31日文科省告示第54号様式第4号その3所定。本項末尾に書式を添付する。)
 添付のとおりの「就任承諾書」は、宛先は「申請者」(文科省に設置申請をする者)である。
 そして学長や学部長予定者名、設置の趣旨や大学の概要は開設前年度の4月30日までに届けなければならないが、教員の就任承諾書は7月31日までとなっている。
 以上のことを法的に見れば、就任承諾書とは大学設置認可申請手続のために文部科学大臣あてに提出する書類であって(大学の設置等の認可の申請手続等に関する規則第1条第2項5号)、教員と雇用者との間の雇用契約及びそれに基づく勤務条件を定めるものではないのである。
 このことは、先に挙げた就任承諾書の文言から明らかである。
 これに対し、任期制に対する同意は、仮になされるとすれば、勤務条件に関する問題であるから、教員と雇用者である公立大学法人との間でなされるべき問題である。
したがって、就任承諾書の提出と任期制への同意とは、その法的性格も相手方も異なるものであるから、任期制に対する不同意が、就任承諾書の効力に影響することはないといえる。

【添付】就任承諾書書式
(その3)

                   就 任 承 諾 書
                                                                   年  月  日
(申 請 者 名)殿  
                                                    氏 名          ○印
私は,○○大学設置認可の上は,○○学部○○学科担当の専任の教員として, 年 月 日から就任することを承諾
します。