各学部教員1人あたりの学生数について

東京都立大学人文学部 三宅昭良

 8月1日以来、管理本部は人文学部の教員1人が受け持つ学部学生数が4.6人と非常に少ないことを強調しています。それは正しい数字でしょうか。もしかすると正しいのではないかと考えている方がいらっしゃるかも知れません。ここに、4.6人という数字は間違いであると証明した資料がありますので、紹介いたします。作成者は教養部長の丹治信春氏です。
  資料の計算結果から示しておきましょう。

理学部(8.1人)<工学部(8.6人)<人文学部(9.9人)<法学部(11.7人)<経済学部(13.9人)

 つまり、都立大学の5学部にそれほどのばらつきはなく、人文学部はそのほぼ平均的な数字だということです。では管理本部とのあいだにどうしてこんな数字の違いが出てきたのでしょう。
  管理本部の計算は単純に「学生収容定員」を「教員定数」で割ったものと推測されます。そうすると人文学部の場合、639/139=4.6人となります。これが教育現場の実際を反映していないことは皆さんの経験に照らせば明らかです。教養クラスをひとつでも持てば、大勢の他学部の学生を受けもつことになりますし、ときには専門クラスにさえそうした学生が受講しに来るからです。そして丹治氏の計算はこうした複雑な要素をできるだけ計算に反映させようと苦心したものです。
  丹治方式の基本的考え方は、まず、ひとりの学生の卒業単位数をどの学部の教員がどれくらいの労働時間で支えているか、それを各学部の学生ごとに計算するというものです。つまり、たとえば経済学部の学生ひとりの卒業に占める法学部教員の負担、経済学部教員の負担、人文学部教員の負担、工学部教員の負担、理学部教員の負担を、それぞれの教員が受け持つコマ数の割合で計算し、同様のことをすべての学部の学生について計算するということです。
 つぎに、そうやって計算した数値に各学部の「学生収容定員」をかけ算します。これで、たとえば人文学部の学生全体に占める法学部教員の負担、経済学部教員の負担、人文学部教員の負担、工学部教員の負担、理学部教員の負担がそれぞれ数値化されます。同様のことをすべての学部で計算するわけです。これは各学部の教員が自学部と他の4学部でどれくらい学生の教育に貢献しているかを反映した数字になります。
 最後に、そうやって計算した貢献度を学部ごとに足し算して、全学生にたいする法学部の貢献度、経済学部の貢献度、人文学部の貢献度、理学部の貢献度、工学部の貢献度を計算し、これを各学部の教員定数で割るわけです。以上が丹治方式の基本的な計算方式です。
 このような計算で外国語や体育などの全学に関わる科目などを数字に反映させるわけですが、教養科目は学部ごとに履修条件が違い、かなりやっかいです。その細部は正確に説明すればするほど、複雑で煩雑なものになります。読んでいただけなくなることを恐れますので、ここでは「保健体育をのぞく全教養講義科目数」に占める「各学部の提供科目数」の割合を、各学部の「教養科目から任意に選択」とされている単位数(正確には「コマ数」)に乗じる、という基本方式を説明するにとどめ、それ以上に複雑な部分は省略します。
 管理本部方式とちがい、丹治方式では非常勤講師への依存度を考慮しています。これは、全クラスを専任教員が担当していると仮定して出した数値に、最後に専任教員担当割合をかけることで処理しています。ですが、管理本部数値との比較をおこなうなら、対比すべきは考慮前の、全科目を専任教員が担当すると仮定した場合の数字です。ですから冒頭に示しました計算結果は、その段階での数値を用いました。
 計算の基となる数値については、管理本部と同様、それが依拠していると思われる「学生収容定員」と「教員定数」を使っております。これで例の「4.6人」との対比がしやすくなるわけです。授業コマ数については、2002年の『自己点検・評価報告書』の36180ページに載っている「2001年度実績」を使用したということです。また、「外国語科目と体育実技は、半期1コマで1単位ですが、コマ数を基本に考えるために、2単位として計算します。また、専門科目には様々な単位数の科目(卒業論文も含めて)がありますが、簡単のために、すべて、2単位で半期1コマ分と見なすことにします」と丹治氏は説明しております。
 以上のような丹治方式で計算すると、たとえば法学部の場合、学生に占める人文学部教員の貢献度はどうなるでしょうか。学生の卒業に必要な単位数は124単位です。そのうち必修として、外国語16単位、保健体育理論2単位、体育実技2単位があり、「教養科目から任意に選択」が24単位あります。これをコマ数で数えると、外国語16コマ、保健体育理論1コマ、体育実技2コマ、「教養科目から任意に選択」12コマ、卒業に必要な総単位のコマ数は71コマになります。ここから法学部の学生を1人卒業させるのに占める人文学部の貢献度を計算しますと、人文学部提供の@外国語16コマ、A「教養科目から任意に選択」12コマ×「教養科目に占める人文提供科目の割合」83/214=4.65コマ、の2つを加えて「全コマ数71」で割った数字(約29%)になります。これに法学部の学生収容定員735人を掛け合わせると、約213.8人となります。つまり、人文学部教員全員で法学部の学生約213.8人を「丸々世話」して卒業させているという計算になります。
 この考え方ですべての場合を計算したのが、下の一覧表です。
タテ軸が担当教員の学部(「他」は学生部と都市科学研究科)、ヨコ軸が学生の学部です。上段の%は、上に述べた、各学部(横軸)の学生教育に占める各学部教員(縦軸)の貢献度です。学部ごとに右にむかってたし算していくと、その学部の受けもち学生数が計算されます。それが「合計」の欄です。右端の列が、管理本部の数字と対比すべき「各学部教員1人あたりの学生数」となります。右下隅の「教員1人あたり」の「計」は、学生収容定員の合計を、教員定数の合計(学生部と都市科学研究科を除く)で割った「平均」です。 
  すべて専任教員が担当と仮定した場合の、各学部教員の受け持ち学生数

 

学           生

人文

経済

合計

教員

1人当り

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

87

556.9

29

213.8

24

166.0

22

186.3

20

253.2

 

1376.2

 

9.9

 

0.46

2.9

57

418.1

0.62

4.4

0.38

3.2

0.37

4.8

 

433.4

 

11.7

経済

1.1

6.7

1.3

9.3

62

438.7

0.87

7.4

0.73

9.3

 

471.4

 

13.9

 

8.4

53.7

9.2

67.9

9.7

68.2

74

632.5

15

192.0

 

1014.3

 

8.1

 

2.7

17.5

3.3

24.1

3.7

25.9

2.3

19.2

64

818.9

 

905.6

 

8.6

 

 

1.3

 

1.8

 

1.9

 

1.4

 

1.8

 

8.2

 

 

639.0

735.0

705.1

850.0

1280.0

4209.1

9.5

「他」の欄の%表示は0が並んで見にくくなるので省略。 

丹治氏によれば、管理本部方式の計算(学部ごとに、学生収容定員を教員定数で割る)では、「教員1人あたりの学生数」は次のようになるそうです。

人文学部        6391394.6

法学部              7353719.9

経済学部          7053420.7

理学部              8501266.7

工学部          128010512.2

 このひどいバラツキを皆さんはどう判断されるでしょうか。学生定員と教員定数の関係は、全学的な教育負担を考えてできており、このようなアンバランスになるはずがないのです。例の「人文学部4.6人」という数字はまったく現実を反映していないことが分かります。 
  最後に、丹治方式による、「専任教員担当割合」を乗じて「非常勤講師の依存度」を割り引いた結果を示します。すなわち、「各学部の全授業コマ数に占める専任教員担当分」をかけると、次のようになります。

     専任担当 専任受持ち 専任一人当り

      比率   学生数   学生数

人文学部       79.6      1095.5            7.9

法学部           85.7        371.4          10.0

経済学部       82.2        387.5          11.4

理学部           91.9        932.1            7.4

工学部           84.8        767.9            7.3

       ───────────────

                                合計3554.4  平均8.1

 いかがでしょう。皆さんはご自分の経験に照らして、どちらの計算が現場の実態をより正確に反映していると判断されるでしょうか。
 最後(ホントに最後です)にひとつ報告して、この小文を終えるとしましょう。去る11月13日の文教委員会において、ある都議会議員が丹治方式の数字を示し、管理本部に意見を求めました。そのときの管理本部の答弁は、「それでも私立よりも数字が小さい」というものでした。それに対しその議員はこう応えました。『週刊ダイヤモンド』10月25日号の「大学ランキング」で、都立大学は高い評価を得ている。その理由のひとつは、少人数教育である。つまり大学の長所を測るものさしは、「教員1人あたりの学生数が少ないほどよい」とされている。管理本部の考えと逆である。
 いかがでしょう。皆さんはご自分の経験に照らして、どちらの考え方がより教育の実際を反映していると判断されるでしょうか。