学生・父母負担を増大させ、大学の自治を破壊し、教職員の地位を不安定にする
地方独立行政法人法に反対する
                                6月3日  東京都立大学・短期大学教職員組合中央執行委員会     

6月3日から国会で審議が始まる地方独立行政法人法案は、公立大学の独立行政法人化を定める法律である。私たちは、以下の理由からこれに反対する。           

1、学生、父母の負担増を招くおそれがある。
 法案は、第23条で「その業務に関して料金を徴収するときは、あらかじめ料金の上限を定め」ることにしている。これは、授業料をあげることを意味し、その他あらゆる学生サービスを対価として学生から料金を徴収できる規定であり、学生、父母の負担増は必至である。
2、大学構成員が現大学にもつ権利・義務関係は必ずしも継承されるとは限らない。
 第66条の規定によれば、学生団体、職員団体にたいする現大学の権利・義務を継承するかどうかが設立団体の長(東京都の場合は都知事)により決められることとされており、例えば、学生自治会、学生サークル、職員組合、生協などの様々な権利が著しく不安定にさせられる。
3、教職員は当人の意向を無視して、法人の職員にさせられる。
 法人に移行する際、「当該設立団体の条例で定めるものの職員である者」すなわち、移行直前まで大学で働いている地方自治体職員は、「別に辞令を発せられない限り」自動的に法人の職員となるとされる。こうした重要な身分変更を当人の意思を無視しておこなう規定は許されない。
4、大学の自治への配慮が不十分である。
 学校教育法改正案によれば、公立大学法人は地方公共団体として大学の設置者となる。したがって、法人を大学の設置者にするのであるから、法人と大学とは別機関であると想定されているが、教授会を中心とする大学の自治への配慮に欠けるものである。
 こんにちまで、学校教育法第59条に基づき「重要な事項を」教授会が審議してきた。しかるに、本法案第77条によると教育研究に関する「重要事項」は、法人の「教育研究審議機関」によって行われるのである。この点は、教授会の権限を法人が奪うだけではなく、大学の権限も奪うことになるおそれがある。
5、学長の選考は大学によって行われると明記すべきである。
 法人の長と学長が同じであれ、別であれ、前項の理由から学長の選考は大学によって行われることを明記すべきである。
 学長と理事長が同一の場合、学長の選考機関は法人の経営審議機関及び法人の教育研究審議機関の各構成員からなるのであって、現在のように学長選挙が大学の構成員によって行われるわけではない。これは法人による大学自治への介入である。
 学長と理事長が別の場合、学長の選考は「大学に係わる選考機関の選考」とあいまいな書き方をせず、学長の選考は大学の機関が行うように明示し、その方法は大学の自主性にゆだねるべきである。
6、「地方自治の本旨」(憲法92条)を尊重しない欠陥法案である。
 前述したように、学校教育法改正によれば、公立大学法人は地方公共団体であるという。地方自治法は第1条3項で、地方公共団体の種類を定めているが、そのなかに公立大学法人の規定はないから、地方自治法改正が行われなければならないが、その予定はない。しかし、公立大学法人は普通地方公共団体には当たらないから、特別地方公共団体にあたると想定できる。
 本法案が、地方自治法の特別地方公共団体の規定、特に地方開発事業団のそれを踏襲していることはわかるにしても、地方自治法第2条は地方公共団体について「地方公共団体に関する法令の規定は、地方自治の本旨に基づき」かつ「特別地方公共団体に関する法令の規定は、特別地方公共団体の特性にも照応するよう」解釈されなければならないとされている。これに照らし、本法案は欠陥法案と言うべきである。
 なぜなら、大学という特性が、前項、前前項で述べたように十分考慮されていない。さらに、団体自治の原則と住民自治の原則からなる住民自治の本旨に、今法案は則っていない。法人、大学の自治は保障されず、自治体の長の統制的権限が強く、かつ議会では、法人設立後は中期目標しか議論することが出来ない。
7、公立大学法人が「地方公共団体」であるなら、教職員は公務員であるのが当然である。
 さらに法案が自己矛盾に陥っているのは、地方公共団体でありながら教職員は非公務員であることである。地方公共団体なら教職員は公務員であるのが当然である。この点からも、本法案は欠陥法案である。
8、教職員の給与が切り下げられるおそれが十分ある。
 一般地方独立行政法人である公立大学法人の給与は、法案57条で職員の勤務成績を考慮して決められる。地方公務員法24条では、生計費と他の地方公共団体の職員および民間の給与などを考慮して決められることになっている。これと法案を比較すれば、給料の基礎となる生計費が無視されることにより、給料の生計費以下の切り下げが可能となる。
9,公立大学ほか医療機関など公的施設の廃止を簡単に行うことができる。
 法案第31条によれば、中期目標の終了時に、自治体の長はその施設の廃止を含め検討することになっている。これは、施設の廃止を法によりやりやすくするとしか考えられない。そうすると、本法案は従来自治体が責任を持って行ってきた事業を、将来廃止し、市場原理にゆだねることを目的とすることになる。こうしたことは、住民の生存権、学習権を破壊する行為である。
 
以上、縷々述べてきたように、本法案は学生・父母の負担を増大させ、大学の自治を破壊する、公立大学大「改造」法案である。それだけでなく、法自体にも矛盾をもった欠陥法案である。
 このような法案に、我々は反対である。