尾林弁護士講演要旨

 

今日は大きく分けて5つの点についてお話したいと思います。

@組合の奮闘

 8月1日の新構想発表以降の組合の皆様のご奮闘ぶりには感心しております。都・大学管理本部による「情報統制」が行われる中で、組合の情報紙「手から手へ」が、都立4大学教職員の唯一の貴重な情報源になってきたと聞いております。

A石原知事の「クーデター」的・「ファッショ」的改革の破綻

 銀行への外形標準課税導入などを見てもわかるように、石原知事の手法というのは、トップダウンで決めたことをいきなり記者会見で発表して、世論を味方につける、というやり方です。それが今回の都立新大学構想に関しては、うまくいっていない、というのが実情だと思います。

たとえばマスコミの報道を見ても、都立大総長声明の記事が「朝日新聞」で6段抜きの扱いだったのに対し、それに対する石原知事のコメントはいわゆる「ベタ記事」の扱いでした。権力の座にある知事の発言より、都立大総長の声明の方がこれだけ扱いが大きいというのは画期的なことで、皆さんがマスコミの方への情報説明でもがんばっているということが言えると思います。

 都立大総長声明に対しては、都立3大学学長の意見表明が出されましたが扱いは小さく、その後も学生自治会の抗議声明や院生の公開質問状などについて報道がありました。学生の動きがこれだけマスコミに取り上げられるというのも画期的なことです。「週刊朝日」の記事などを見ても、皆さんが都・管理本部と「がっぷり四つ」に組んで、押し返さんばかりの勢いで頑張っているのは、賞賛に値すると思います。

B地方独立行政法人法の問題

 この法律には、法人の経営面での採算性を重視し、5年ごとに事業の継続を再検討することが定められるなどの問題があるわけですが、この法律のひとつの主眼は、「移行型地方独立行政法人」という形で、公務員をスムースに法人職員に移行させることにあります。ですから移行のついでに(教)職員を差別・選別して切り捨てることは想定しておらず、雇用は引き継がれることが当然であると言えます。

管理本部は組合の解明要求に対する回答の中で、「新大学設置」が地方独立行政法人法上は「移行型法人」であり、文科省に対しても、日程的に新設は無理であることから、「移行」として設置申請をする可能性を認めています。都民に対して、あるいは大学教職員の権利等に関しては「4大学廃止・新大学設置」と説明しながら、文科省に対して、あるいは法律上は「移行」としてことを進めようという「ご都合主義」は法治主義に反するものです。

今後この法律の運用がどのような形で定着していくかは、都立4大学を含むひとつひとつの現場でどのような運用がなされるかにかかっています。その意味で、この都立4大学の問題がどうなるかは非常に重要です。

C勤務条件と労働組合

 新大学における教職員の勤務・労働条件について、都は教職員組合と誠実な交渉をする義務があります。都は任期制の導入を提案していますが、この任期制というのは、働くものの権利の弱体化をもたらすもので、いいことはひとつもありません。そもそもこの任期制は、勤務条件というより身分・雇用の問題と見るべきものです。独立行政法人化に際しての任期制の運用のしかたによっては、実質的な首切りに使われる可能性があるからです。

 年俸制が導入されようとしているようですが、年俸制の本質は、給料が下がることがあるということです。そして、賃金が世間の相場より低ければ人材は集まらなくなり、「頭脳流出」のおそれも出てきます。業績評価と賃金をリンクさせることも検討されているとのことですが、どういう角度から評価するのか、ということが問題です。さまざまな資料を準備し、(11月13日に予定されている)都議会(文教委員会)での論戦に備える必要があります。管理本部は人文学部の学生数の少なさを槍玉にあげているようですが、そもそも教員の数に比べて学生数が少ない、ということはいいことなのではないでしょうか?(以下の資料参照)管理本部の主張は、必ずしもきちんとした証拠・データの裏づけがないことがひとつの特徴ですから、学生、父母、受験生の声などを集めた「文集」のようなものをつくるとか、実証的なデータで反論するのが有効だと思います。

D都・石原知事の攻撃は国際的に見ても恐れるに足りず

 UNESCOは「高等教育職員の地位に関する勧告」(http://zendaikyo.or.jp/daigaku/unesco/komuji.htm参照)の中で教職員の発言権について明確に述べており、石原都知事の手法はこれに反するものです。今日本では総務省による公務員制度改革が進められようとしていますが、この問題に関して日本政府が公務労働者の権利を侵害しているということで、ILOから是正勧告が出ました。これに対し日本政府は反省するどころか、「情報提供が足りなかった」と言ってILOに対する情報提供を熱心に行いました。にもかかわらずILOは、再度の是正勧告を日本政府に対して行ったのです。その結果公務員制度改革関連法案は、先の通常国会に未提出のままになっています。つまり、公務員攻撃に対しILOの勧告が大きなハードルとなったわけです。

 都の銀行に対する外形標準課税の裁判では、都が都議会で銀行に関して不正確な説明をして条例を通したことに対し、裁判所が判決の中できびしい批判を行いました。また、圏央道建設の強制執行停止の判決が出た裁判でも、都はその主張を正当化するにふさわしい立証をしようとしないという裁判所のきびしい批判を受けました。必ずしもいい判決ばかりではない裁判所としても、石原都知事の横暴については断罪を下しているわけです。ですからこれからのたたかいで、軌道修正を勝ち取る余地は大いにあると思います。

 最後に強調しておきたいことは、学生説明会、マスコミ報道などを通して、広く父母、市民などに支持される活動が有効だということです。特に学生との連携は決定的に重要です。その場合、法的に見て学生は旧大学と新大学に同時に所属することはできず、また学生の身分を失うこともあってはならない、つまり、教育に「隙間」をつくってはならない、ということがひとつのポイントになると思います。また、任期制に関しては、教員がコロコロ変わるのと、教育研究に腰を据えて取り組めるのと、学生にとってどっちがいいか、という形で訴えることが可能だと思います。

都の主張は「足腰の弱い」議論だと思いますので、実証的なデータにもとづいた主張をしていくことが、世論を味方につけ、都議会での議論を有利に進めるのに決定的に重要になると思います。

参議院の「大学の教員等の任期に関する法律案に対する附帯決議」

 

政府は、学問の自由及び大学の自治の制度的な保障が大学におけ教育研究の進展の基盤であることにかんがみ、この法律の実施に当たっては、次の事項については、特段の配慮をすべきである。

一.任期制の導入によって、学問の自由及び大学の自治の尊重を担保している教員の身分保障の精神が損なわれることがないよう充分配慮するとともに、いやしくも大学に対して、任期制の導入を当該大学の教育研究支援の条件とする等の誘導や干渉は一切行わないこと。

二.任期制の適用の対象や範囲、再任審査等において、その運用が恣意的にならないよう、本法の趣旨に沿った制度の適正な運用が確保されるよう努めること。

三.任期制を導入するに際して、教員の業績評価が適切に行われることとなるよう評価システム等について検討を行うとともに、特に、中長期的な教育研究活動が損なわれることがないよう、大学側の配慮を求めること。

四.国公立大学の教員については、一般の公務員制度との均衡等に配慮して、任期付き教員の給与等の処遇の改善を検討すること。

五.任期制付き教員の異動が円滑に行われるよう教員・研究者に関する人材情報の収集提供活動を一層充実し、雇用環境を整備すること。

六.高等教育の活性化と充実を図るため、各地の大学が優れた教員を確保できるよう、教育研究条件の整備を検討すること。

七.私立大学における任期制の実施については、労働協約事項の対象となることを認識し、制度の円滑な運用に努めること。

右決議する。

 (注 「附帯決議」とは)

 「附帯決議」自身は、その法的根拠や拘束力をもつものではないが、当委員会での意思表明という性格をもち、政府等が、今後法律の具体化に際して、十分留意して取り組むべき方向を示すという意味を有している。