2417号
  

 いわゆる「助教」制度について
「研究員相当職の職務実態調査」の実施にあたって考えておくべき事

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 最近、学校教育法が改正され、助教授が准教授になり、新しく助教の職が生まれたことに伴い、教授、準教授、助手の仕事の内容が変わりました。(変更内容については資料1参照)また最近、学内でもそれに関連した調査活動が法人により行われようとしています。
 確かに従来の法律では「助教授は、教授の職務を助ける。」「助手は、教授と助教授を助ける」といった「助ける」規定が教員間の徒弟制的職階制度の温床になっていた側面があります。もちろん、この規定にかかわらず、すべての教員を自立した教育・研究者と位置づけて運営してきた多くの大学や研究室があります。
 今回の改正では「助ける」規定がなくなり、これにかえて、教授、准教授、助教に共通した職務内容が、「学生を教授し、その研究を指導し、又は研究に従事する。」と規定されました。しかし、「助手」は「その所属する組織における教育研究の円滑な実施に必要な業務」と規定されているので、助教以上の教員の職務内容とは明確に区別されています。いわば研究教育の支援要員という位置づけに近いものです。
 これをうけて、現行の助手には、新しい助手の規定はなじまないと考えている多くの国立大学法人では、来年4月より原則として助手を助教に切り替える措置を検討しているという情報もあります。
 しかしながら、今回の改正には以下に示すような問題点や疑問点があります。

<能力・業績による差>
 新しい法律では、教授は「教育上、研究上又は実務上の特に優れた知識、能力及び実績を有する者」とあり、准教授は「教育上、研究上又は実務上の優れた知識、能力及び実績を有する者」、助教は「教育上、研究上又は実務上の知識及び能力を有する」とされ、能力により職階が区別されています。問題は、「特に優れた」「優れた」が恣意的に運用される危険性もあります。
 また、これらの職階の間の関係が、新しい学校教育法には規定されていません。一方、学校教育法の改正に伴って、大学設置基準も改正されました(資料2参照)。この大学設置基準改正要綱の第一項目を見ると分かるように、最も危惧されるのは、それぞれの職階のあいだの関係の具体的規定が法人の運営や経営の都合によって運用されてしまう危険性があることです。

<助教は多忙にならないか?>
 現在の助手は、実習・実験の指導あるいは補佐、授業の補佐・代行、研究、事務など多様な仕事をしています。なぜなら、それが教育・研究組織に必要だからです。この助手が助教になった場合、実習・実験の補佐、事務をする人が絶対必要になります。その人が、新しい助手に当たります。かつ、大学設置基準改正要綱によると、「演習、実験、実習または実技を伴う授業科目についてはなるべく助手に補助させる」となっていますから、助教は、そうした仕事はしなくてよいことになります。
 ところが、現在の助手が助教になると、定員数が決まっている中では、助手を新たに雇えないという事態が生じます。そうすると、助教は、今までの助手の仕事に授業担当が加わり、今以上に忙しくなります。任期制が非常な負担になります。
 したがって、助手から助教の移行は、当人の意志によることにし、必要な人員をつける必要があります。

<助教は教授会には入れるか?>
 助教は専任教員と位置づけられながら、59条の教授会の規定は本質的に変わっていません。「助教授その他の職員を加えることができる」の「助教授」が「准教授」に変わっただけで、相変わらず教授を頂点とした制度を保存しています。現在でも、教授会の構成員に助教授を加えているところは少なくないと思われますが、「助教」がどうなるのかは定かではありません。むしろ、59条の規定は、58条において「助ける」条項が削除されたにもかかわらず、結局のところ保守的な職階制度を温存していると見ることもできますし、具体的な運営は、各大学にまかされているともいえます。

<助教と講師は区別できるか?>
 労働組合として大きな関心は、職種と給与との関係です。国立大学法人も公立大学法人も、職種と給与との対応関係を法人化後も保持して来ました。昨年、法人と組合の間で合意に至った新しい給与制度でも、4種類の給与表が用意されていますし、その中にはいわゆる「講師」相当の給与表もあります。
 一方で、58条に基づいて「助教」は授業を担当することもできるようになります。授業を担当するとなる「助教」と講師との職務内容との区別は実質的に困難であり、講師相当の給与を支払われるのが当然になります。
 他方、58条の規定をみると「助手」の職務内容のみが特殊になっていますから、本学の場合、大半の現行「助手」や「研究員」は「助手」という格付けになじまず、むしろ「助教」になる資格を備えているということになります。現在、法人が行っている調査活動の結果が、より具体的にどれほど多数の「研究員」「助手」が「助教」としての資格を有するかを明らかにすることでしょう。

<給与格付・任期制は労使の協議事項>
 一方、改正された58条では「助手」は教育研究の支援的な職種になっているので、普通に教育・研究をしている場合、その教員が「助教」の格付けがされないと不利な扱いを受ける可能性があります。ところで法人当局は、これらの教員が「助教」に格付けされた場合の予算をどのように考えているのでしょうか。平成17年度だけで17億円の黒字をだしたわけですから、それだけの予算の確保の意思があると期待せざるを得ません。当然の事ながら、新しい職種の給与の格付けは労使の協議事項なので、法人が一方的に決めることはできません。
 助教になる資格を十分に満たしている教員でも、ただ授業の負担が増えたばかりで、給与表の適用に変化がなければ、何らかの不満が生じても不思議ではありません。したがって助教制度が有効に働くためには、それに相当する給与上の格付けが不可欠となるでしょう。
 また、現在の助手のなかには、種々の事情で助教への移行を選択しないケースもありえますから、58条で助手の位置づけが下がったとしても、その給与を引き下げてはいけないのは当然のことです。また「助教」に格付けされた場合に任期制が適用されるかどうかも、重要な労使協議事項であり、その結果は「助教」が魅力ある職種であるかどうかに直接関係してきます。そもそも、職種の見直しを本人の意思とは無関係に法律で変更したわけですから、それに基づいて「助教」を選択したことにより自動的に任期制を抱き合わせにするとすれば、極めて違法性の疑いが濃いものとなります。

<教授が半数という問題>
 ところで、大学設置基準によれば、専任教員の内、半数は教授である必要があります。すぐわかるように、今の助手・研究員を助教にすれば教授の割合が半数を切ってしまう専攻・分野などが出てきます。これも大きな問題です。
  なお、今回行われている調査はあくまでも実態を統計的に把握するのが目的と思われます。したがって、個人が特定されるような調査ではなく、またこれをもって個人を評価するものでもないことを明確にしておくことも重要です。
 組合は、「人事制度等検討委員会」の検討を注視し、必要に応じて、交渉、協議を要求していきます。「人事制度検討委員会」の検討内容を教職員に公開することを要求します。

<助手・助教問題に関する討論を呼びかけます。また、意見、質問をお寄せください>

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(資料1)
学校教育法(旧)
第58条 大学には、学長、教授、助教授、助手及び事務職員を置かなければならない。
2 大学には、前項のほか、副学長、学部長、講師、技術職員その他必要な職員を置くことができる。
3 学長は、校務をつかさどり、所属職員を統督する。
4 副学長は、学長の職務を助ける。
5 学部長は、学部に関する校務をつかさどる。
6 教授は、学生を教授し、その研究を指導し、又は研究に従事する。
7 助教授は、教授の職務を助ける
8 助手は、教授及び助教授の職務を助ける。
9 講師は、教授又は助教授に準ずる職務に従事する。
第59条 大学には、重要な事項を審議するため、教授会を置かなければならない。
2 教授会の組織には、助教授その他の職員を加えることができる。

学校教育法(改正後、下線部)
第58条 第五十八条大学には学長、教授、准教授、助教、助手及び事務職員を置かなければならない。ただし、教育研究上の組織編制として適切と認められる場合には、准教授、助教又は助手を置かないことができる。
A 大学には、前項のほか、副学長、学部長、講師、技術職員その他必要な職員を置くことができる。
E 教授は、専攻分野について、教育上、研究上又は実務上の特に優れた知識、能力及び実績を有する者であって、学生を教授し、その研究を指導し、又は研究に従事する。
F 准教授は、専攻分野について、教育上、研究上又は実務上の優れた知識、能力及び実績を有する者であって、学生を教授し、その研究を指導し、又は研究に従事する。
G 助教は、専攻分野について、教育上、研究上又は実務上の知識及び能力を有する者であって、学生を教授し、その研究を指導し、又は研究に従事する。
H 助手は、その所属する組織における教育研究の円滑な実施に必要な業務に従事する。
I 講師は、教授又は准教授に準ずる職務に従事する。
第五十九条(略)
A 教授会の組織には、准教授その他の職員を加えることができる。

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(資料2)
大学設置基準改正要綱(抜粋)

第一 教員組織に関する事項
大学は、授与する学位の種類及び分野に応じ必要な教員を置くものとすること。教育上主要と認められる授業科目については、原則として専任の教授又は准教授に、それ以外の授業科目については、なるべく専任の教授、准教授、講師又は助教に担当させるものとし、演習、実験、実習又は実技を伴う授業科目についてはなるべく助手に補助させるものとすること。
また、大学は、教員の適切な役割分担及び組織的な連携体制を確保し、かつ、教育研究上の責任体制が明確になるよう教員組織を編制するものとすること。
第二 専任教員に関する事項
専任教員は、一の大学に限り専任教員となるものとすること。また、専ら当該大学において、教育研究活動に従事するものとすること。ただし、教育研究上特に必要があり、かつ、当該大学における教育研究活動の遂行に支障がないと認められる場合は、その他の活動に従事する者を専任教員とすることができることとすること。
第三 専任教員数に関する事項
専任教員の数は、教授、准教授、講師又は助教の数を合計した数とすること。また、授業を担当しない教員は、専任教員の数に含めないこととすること。
第四 助教の資格に関する事項
助教となることのできる者について、修士の学位又は専門職学位を有する者であって、大学における教育を担当するにふさわしい教育上の能力を有すると認められる者であることを基本的な資格として定めること。
第五施行期日
この改正は、平成19年4月1日から施行するものとすること。
第六 その他所要の規定の整備を行うこと。
(中略)
大学院は、人材養成に関する目的その他教育研究上の目的を研究科又は専攻ごとに学則等に定め、公表するものとすること。
第二 教員組織に関する事項
大学院は、授与する学位の種類及び分野に応じ必要な教員を置くものとするとともに、教員の適切な役割分担及び組織的な連携体制を確保し、もって組織的な教育が行われるよう教員組織を編制するものとすること。
また、博士課程を担当する教員は、教育研究上支障を生じない場合には、修士課程を担当する教員のうち博士課程を担当する資格を有する者が一個の専攻に限り兼ねることができることとすること。