2320号
 
現状での『照会』に回答するべきではない
  ・ 合理性、正当性のない「選択」は不当
    ・ あらゆる疑問に答えさせてから判断しよう

2005.1.11 東京都立大学・短期大学教職員組合 中央執行委員会

 現在大学管理本部によって進められている『任用・給与制度の選択について(照会)』に関して、組合中央執行委員会は、 すでに昨年末に、弁護団のアドバイスをもとに『あわてて提出する必要はありません』(『手から手へ』第2316号)という見解を 出しているところです。一方、組合が提出した『新法人における賃金雇用制度に関する緊急要求』および同『緊急解明事項』への 回答が、昨年12月27日に当局から示されました(『手から手へ』第2318号)が、それによって当局提案の「新、旧制度」なる賃金 雇用制度がどちらも、何ら「選択」に値するものではないことがますます歴然としてきました(『回答』に対する執行委員会見解は 別掲)。したがって、中央執行委員会は、全組合員と教員に「少なくとも、疑義が解明されるまでこの照会に応ずるべきではない」 と訴えるものです。


 この「選択」を要求すること自体が不当です
  初年度しか保証されない給与アップと引き替えに、基準も方法も未定の「評価」による「任期制」を押しつける「新制度」、 年齢とともに当然上昇する生計費や職務への熟練、経験の蓄積を一切評価せず、給与を固定し、昇任、昇格の機会すら与えない 「旧制度」。この二つを提示して「どちらかを選べるのだから不利益変更ではない」という、当局の論理がいかに不当なもので あるかは子供でも分かります。
 現状は、「必ず給与が上がると保証されている」訳ではないものの、「期限の定めのない雇用」であり、まじめに勤務すれば実態 として1年間で1号俸ないし2号俸の昇級がなされており、なおかつ昇任、昇格の機会はあるのです。それを、「都の政策である」 「任期・年俸制が本則である」というなんら説明にならない強弁で、いずれをとっても不利となる「選択」を強要するのが「一方的 な不利益変更」でなくして何なのでしょう。
 これまでの一年以上にわたる交渉の過程でも、当局はついにこの「選択」の合理性を示すことができなかったのです。少なくとも、 現行の賃金雇用制度が何故不備なのか、どこに問題があるのかが説得的に示されなければならないはずですが、今もってそれもあり ません。しかも、「法人経営」に責任を持つはずの「経営準備室運営会議」でも都当局の説明が一方的になされただけで審議、検討 された形跡はないのです。昨年4月に先行して法人化された国立大学のうちで1校でもこんな乱暴な「選択」を行ったところはなく、法人化法の「身分継承」の趣旨に添って賃金雇用制度(昇格機会のある終身雇用、既往と同じ給与表に基づく昇級機会の保障)は不変なまま移行が行われているのです。
 現状の不合理性が示されない以上、「選択」というからには、まず現状の保証があって、その上で付加的な選択肢が示されなければ ならないのです。

「新制度」の目先の給与アップにだまされてはいけない
  一年以上にわたる組合の交渉や多くの教員の批判によって、「新制度」の給与は「現給以上」になってはいますが、この額の保障は、 2005(平成17)年度のみと考えるべきです。もともと5割の「基本給=生活給」、3割の「職務給」、2割の「業績給」という粗雑な枠組み 自体が大きな矛盾を持っているのです。
  「生活給」に対する基本的認識の不備(扶養家族の増減の無視、現行の休業時賃金とのあまりに大きな乖離等々)だけでなく『緊急解明事項に 対する回答』をみれば明らかなように、職務給、業績給の基準そのものが全く白紙状態で、昨年12月に急遽発足し、まだ一度しか開かれていない 「年俸制・業績評価検討委員会」に丸投げでゆだねられている状態です。詳細は『回答』を読んで頂きたいのですが、休職時の扱い、当初(第一 回経営準備室運営会議)は、授業持ち数、管理職業務、委員会業務、指導院生数等々でポイント制にすると言っていた職務給が、それらが少ない 助教授以下、とくに助手(研究員)ではどう扱われるのか、現在同じ級・号で授業持ち数の異なる教員で職務給の再配分が起こるのか、大幅に 増加する予定の理事や「管理職」が職務給の大半を独占してしまうのではないか、など、18年度以降は全くの未定なのです。つまり、給与の5割 が今後大きく変動する可能性が高いわけです。
  また、50万円刻みの粗い給与表の仕組みは、常識的に考えて5年程度の任期中に次の段階に上がる見込みが非常に乏しく、基本給固定のまま 不安定な職務給、業績給に翻弄されてしまう恐れが多分にあるのです。私たちは、給料の半分が相対評価の下で変動させられてしまうこの賃金 制度は有期雇用(任期制)と引き替えにするだけのメリットはないと判断せざるを得ません。
  さらに、とくに注意を喚起したいのは、1月7日付け東京新聞が報じた、都は新法人の運営費交付金に2.5%の「効率化係数」を掛ける (毎年2.5%ずつ減少させる)ということです。除かれるのは退職金と臨時的経費だけ、ということですから、平均して人件費も同様の減額を受ける可能性があるわけです。もし、そうなれば、真っ先に影響を被るのは変動的な「新制度賃金」の職務、業績給部分であるのは明らかでしょう。たとえ「評価」に自信がある教員でも全体のパイの減少の中では期待を持つわけにはいきません。

「旧制度」はもちろん「現行」とは異なる
  この点については論をまたないでしょう。当局は「旧制度」選択者は昇任させないと言っています。昇任審査は受けられる、合格もできる、 しかし昇任はできない、どんなに研究業績を上げ、教育に貢献しても昇級もさせない、という主張の異常さを組合はとうてい容認できません。 したがって、私たちは今回の『照会』の旧制度を選択することにも反対します。

「東京方式」を全国に広げてはならない
  私たちは単に、私たち自身の賃金や身分が不利益変更されるから、というだけでこの制度に反対しているのではありません。横浜市立大学は もとより、昨年春以降、全国の公立大学を法人化させる動きが急に顕著になってきました。しかも、その多くが検討中であった計画がいきなり 打ち切られたり、ひどい場合は大学側と何の協議も検討もないまま行政側から一方的に法人化が宣言されたりしているのです。それと同時に、 あたかも判で押したかのようにどこでも任期制や年俸制がうたわれ、教授会権限の剥奪が企図されているのです。
  明らかに、地独法の不備につけ込んで公立大学の変質と解体、リストラと経費削減をねらう東京方式が全国に広がっているのです。
  この動きに歯止めを掛け、公立大学の教育と研究を維持し、教員の働く権利を守るために都立の大学の教員がまず闘うことが必要ではないで しょうか。

現状では『照会』に応えるべきではない
  当局は、「4月の給与を支給するための電算入力のために必要な調査で、それ以上のものではない」と言い、口頭ですが、法人との正式契約 の際に今回の「照会」と異なる選択をしても自由で、いかなるペナルティも課さない、と表明しています。
  ただし、警戒は必要です。昇任審査や新規採用でも「現状での都の方針」に過ぎない、と断っているにもかかわらず、『回答』では「文書で示 してある」と「新制度」選択の扱いをしているのです。電算入力の都合なら「旧制度」は現在のデータを引き継ぐだけで容易なはずです。多数は 期待できない「新制度」選択者を増やすために陰険な圧力を掛ける以前に、まず、現在の制度をそのまま移行させ、杜撰な設計を見直し、不利益 ではないと納得ができる案としてあらためて提示すべきなのです。
  したがって、
@ 将来の昇任、昇級の機会確保のために「新制度」を選択しようと考えている教員は、前述の給与の不安定性が「任期制」と見合うか熟慮して ください。執行委員会は今後も当局提案の年俸設計の不合理制を追求します。今は提出を保留し、少なくとも3月末までその経過を見守り、納得 ができてから正式の「同意」を与えるようにしてください。給与の5割が使用者の恣意に任される賃金制度は働く者の権利の根幹を揺るがすもの です。
A 執行委員会は、「旧制度」で良い、と考えている教員にも、「旧制度選択」の回答を出さないようにお願いいたします。既報の弁護団のアド バイスにもあるように、その回答自体が不当な賃金制度の容認とされてしまう可能性があるからです。また、照会文書自体にも明記されている 通り、回答を出さない限り「旧制度選択」と見なされるわけですから、「旧制度選択」をしようとしている教員にとっては、回答をしないことが 何らの不利益にはなりません。
B すでに「昇任審査」をパスしている人には『照会』ではなく新制度年俸の『通知』が来ているはずです。組合は、年俸の枠組みだけでなく、 昇任=「新制度(任期制)」という押しつけ(選択権の剥奪)を容認しておらず、昇任と賃金制度を切り離すことを要求しています。したがって、 昇任予定者に『照会』をせずに『通知』だけをすることに抗議しました。今後、法人との正式契約の時期を目指して、基準も手続きも未定の 任期制の導入の凍結、撤廃の交渉を行います。最低限、正式な任期制の同意文書は評価基準、手続きが明確化した段階まで延期させなければなり ません。ぜひ、組合に結集してともに闘って頂きたいと思います。
C 新大学に就任しない人に対しては、当局は、当然「旧制度」であるとして現在まで『照会』も『通知』も送付していないはずです。しかし、 組合の「いかなる差別も行うな」という抗議に応じて、当局は『通知』を行うとしています。また、とくに重要なことは選択する制度がどれで あろうとも、「勤務時間、研究費、教育・研究条件、担当する校務などに差異は設けない」としている当局を十分監視し、いかなる差別的扱いに 対しても直ちに抗議することです。
D とくに助手の皆さんに訴えます。今回同時に行われている「准教授B」の募集は、「任期制」という危険な落とし穴を持っていることを十分 考慮してください。中央執行委員会の判断では、定年まで2年以上を残している人は「任期・年俸制」である「准教授B」への現時点での移行は 重大な権利放棄につながる可能性が高いのです。たとえ、当局の方針のままに推移したとしても、「旧制度」から「新制度」への応募はいつでも できるのです。少なくとも17年度は組合の交渉経過を見守ってくださるよう訴えます。
E 最後に、提示されているどちらの制度にも納得できないが、この種の『照会』に応えないと、何か嫌がらせを受けるのではないか、あるいは、 何となく落ち着かない、と不安に感じている教員もいると思います。繰り返しになりますが、当局自身がこの『照会』は事務処理上のもので、 最終的な労働契約を拘束するものではない、と言明しています。また、いかなる「嫌がらせ」に対しても組合は断固として闘います。暗黙の圧力に 屈することから権利侵害が広がってしまうのです。納得できないことはあくまで拒否しましょう。それは全く正当な権利なのです。組合の要求で、 今回の『照会』には『質問用紙』が付加されました。どんな些細な疑問でも出しましょう。そして、その内容と回答をぜひ組合に知らせてくだ さい。

 奇しくも私たちへの『照会』と時を同じくして、横浜市は法人化される市立大の教員の勤務条件、評価制度などを「トップダウン」で公表して います。全員一律の「任期・年俸制」の強制と「法人トップが考えた目標を、その一員としていかに達成したか」を基調とする「評価制度」に 連動 した年俸制です。大学のもつべき自由の一片すら見られない悲惨な制度が大手を振ってまかり通ろうとしています。また、東京においても前述の ように効率化係数2.5%という常識はずれの経費削減計画が強行されようとしています。
 大学を破壊から防ぎ、働くものの権利を守るためのぎりぎりの闘いが続きます。今回の『照会』への対応も含めて、これまでの交渉、要求の重 大な結節点となる就業規則、勤務労働条件を巡る労使協定、労働協約への取り組みにすべての教職員が組合に参加し、団結して闘いましょう。