「都立新大学構想」に関する質問状

 

東京都大学管理本部長 山口一久様 

去る8月1日、「都立の新しい大学の構想について」が発表されましたが、その中に大学院の構想は示されておらず、現在多くの大学院生が非常に不安を感じています。このたび私たち史学専攻の大学院生は、構成員のほぼ全員からなる「東京都立大学史学科院生会」を立ち上げ、将来の不安を解消すべく、情報収集につとめております。私たちとしては現体制での存続を第一に願うものでありますが、新大学が設置された場合に生じる疑問として以下の3点の質問に、ご回答いただきたくお願い申し上げます。

1.「新大学」の大学院において、「史学専攻」は維持されるのでしょうか。

 現在示されている計画では、新大学における大学院の構想は含まれておらず、そもそも設置自体が不明確となっています。このような状況では、私たちとしては「新大学」の大学院において史学専攻が存続するのかという深刻な危惧の念を抱かざるを得ません。もし専攻が廃止されることになれば、現在の大学院生の研究・指導体制は完全に損なわれ、多くの院生が将来の見とおしを失うだけではなく、その研究生活自体が大きな打撃を被ることになるのです。この点いかがお考えでしょうか。

2.大学院生の現在の研究環境(教員・設備など)維持については、どのような構想をおもちでしょうか。

仮に「新大学」大学院に史学専攻が設置されるとしても、研究環境が実質的に損なわれるならば、それは私たちにとってすなわち専攻が存続されないことを意味します。そもそも都立大学大学院の史学専攻は、世界史的な立場から総合的歴史像の構築を目的とし(大学院案内による)、そのため様々な時代・地域を専門とするスタッフが揃えられております。私たちが都立大を研究の場として選択したのも、そうした環境こそがグローバル化の進む現代社会に対応しうる、歴史認識の獲得を可能にするものと考えたからこそであります。にもかかわらず、「新大学」の大学院において、教員数が大幅に削減されたり、その専門分野に著しい偏りが生じた場合には、上記のような歴史像の構築は不可能となります。また、研究室等の設備や書籍の保存・充実が保証されない場合も同様です。もし現在の研究環境が将来的に維持されないのであれば、それを求めてこの都立大の大学院に進学し、これまで授業料を納めてきた大学院生にとって、いわば契約違反のようなものではないでしょうか。

3.現大学に在籍する大学院生は入学時の規定にのっとった形で、修士課程最大6年間(休学期間を含む)、博士課程最大9年間(休学期間を含む)の在籍が保証されるのでしょうか。

歴史学における研究論文作成においては、新史料の発掘及びその分析などに多くの時間を費やす必要があります。とりわけ外国史の場合、国外にて数年間研究を行うことは今や常識となりつつあり、したがって最低修学年限内に論文を提出することは、特に博士論文の場合非常に困難であります。そのため、私たち大学院生には現在、修士課程は最大6年間(休学期間含む)、博士課程は最大9年間(休学期間含む)の在籍が入学時の規定によって定められております。このような長期の研究期間が保証されていることは、決して院生側の怠惰を助長するものではなく、歴史学を含めた人文科学という学問の性格そのものに起因するものであります。このような私たちの研究事情についてご配慮いただき、上記の質問に具体的にお答えいただきたく思います。

以上の三つの質問は、いずれも私たちの一生を左右する、いわば死活問題であります。この点を十分ご理解いただいた上で、すべての質問についてできる限り具体的な回答をしていただき、私たちの不安・危惧を解消してくださいますよう、お願い申し上げます。

なお、20031017日までに、文書にてお返事いただきたくお願い申し上げます。

 

2003年10月9日

                         東京都立大学史学科院生会

192-0397

東京都八王子市南大沢1−1

東京都立大学大学院 人文科学研究科 

史学専攻 学生院生室