「東京都大学改革大綱」に反対する声明
2001年11月16日 東京都立大学・短期大学教職員組合中央執行委員会
東京都は、本日11月16日に「東京都大学改革大綱」(以下「大綱」と略す)を発表し、東京都の大学「改革」の方向性と枠組みについて明らかにしました。しかしこの「大綱」には、都立の大学の発展を阻害する重大な問題点が存在し、都立の大学に働く私たちは断じてこれを認めるわけにはいきません。
「大綱」の最大の問題点は、第2部第3章「大学運営を革新する」に示された「都立の大学にふさわしい法人化の実現」にあります。そこでは、大学に民間の経営感覚を取り入れる効果を最大限に発揮させるため、経営責任と教育研究責任の区分を明確化し、教育研究部門の責任者である学長と、経営部門の責任者である法人の長を別に置くことになっています。
この教育研究組織と経営管理組織の分離については、学問の自由を脅かす問題として、国立大学の法人化をめぐる論議でも慎重にあつかわれてきました。本年9月27日に発表された文部科学省の「新しい『国立大学法人』像について(中間報告)」においてさえも、学長が法人を代表することが明記されています。しかし、「大綱」に示された東京都の法人化プランでは、経営部門の責任者である法人の長を知事が選任する方向で検討するとしており、これでは、経営効率優先の立場から大学の学問が管理され、学問の自由や大学の自治が侵されることは明らかです。
法人化後の教職員の身分の在り方についても、「大綱」では能力・業績主義の人事給与制度や任期制の導入などを掲げ、特に非公務員型の制度について積極的な検討を行うとしています。このような人事制度が導入されれば、長期にわたって地道な調査・研究を必要とする基礎的分野の研究が、都立の大学から消えてしまい、業績として外部から評価されにくい学生・院生に対するきめ細かい指導が、継続して行われることも難しくなります。これは、大学が社会に対して負っている責任に全く無自覚な人事制度であり、これまで都立の大学の研究・教育水準を支えてきた人材の流出を招くことになりかねません。
東京都は、「全国の自治体に先駆けて」導入する「都立の大学にふさわしい法人化」と主張して、大学に適合しない最も極端な法人化プランを提起しており、これが実現されれば、都立の大学だけではなく、国立大学法人等の在り方を含めて、日本の高等教育全体に深刻な影響を与えることが強く懸念されます。
そしてまた、東京都は、現在の東京都立大学・東京都立科学技術大学・東京都立短期大学・東京都立保健科学大学の4大学を一つに統合し、短期大学と夜間課程をなくして、短期大学と夜間課程に相応する教員定数の大幅削減を強行しようとしています。当教職員組合の試算では、対象となる教員定数は144名にのぼり、現在の講師以上の教員数の実に20パーセント以上もの大削減となります。
新大学では、学生総定員は、短期大学分を含めた4大学の昼間課程総定員を上回ることが目標とされ、新たな大学院も創設されることになっています。つまり、学生数に対して教員数だけが極端に減少することになるわけです。これでは、新しい組織を発展させるどころか、現在まで培ってきた都立の大学の研究・教育体制を維持することすらできません。
これまで東京都は、都立の大学の職員を大幅に削減してきました。都立大学では22年間に141名もの職員が削減され、現在は当時の職員数のほぼ半分になっており、日常的な業務遂行に支障をきたすようになっています。それに今度の教員定数の削減が加われば、もはや大学として機能しえなくなることは明白です。
私たちは、いま一度大学の原点に立ち戻って、大学の教育・研究の発展を阻害する「大綱」を見直すことを強く求め、研究・教育体制を破壊する教職員定数の大幅削減に断固反対します。