「新大学」構想に関する公開質問状

東京都大学管理本部長 山口一久様

20031015

東京都立大学人文科学研究科院生会

 去る81日、東京都大学管理本部によって発表された「都立の新しい大学の構想について」(以下、「新大学」構想)は、大学院の設置について示さなかったため、私たち東京都立大学大学院人文科学研究科(以下、人文科学研究科)の大学院生の中に、大きな不安を与えました。また聞くところによれば、いま検討されている新大学・大学院の構成案においては、人文科学研究科に現在ある多くの専攻が消滅するという噂であり、さらに大学院生の不安が深まっています。これは、こうした内容の改革が、私たち人文科学研究科の大学院生にとって、文字通り死命を制するものであるからです。

 このような状況の中、私たちは人文科学研究科に在籍する大学院生の総意を代表する団体として「東京都立大学人文科学研究科院生会」を立ち上げ、将来への不安を解消すべく情報の収拾・分析及び意見の交換に努めてきました。しかし、依然として多くの重大な問題が不明確なままであり、このままでは大学院生の間で恐慌を来たす恐れがあります。そこで私たちは、大学院生の間で疑問とされている点をお尋ねし、不安を解消したく思います。私たち人文科学研究科の大学院生は、今次改革によって直接大きな影響を被る当事者であり、かつこれまで入学時の契約に従って学費を納入してきた契約者です。また多くの院生は、都民税の納入を通して東京都立大学大学院を支えてきた納税者でもあります。したがって私たちには、質問をさせていただく権利があり、またご回答を頂く権利があるものと考えます。以下の質問に対し、なにとぞ具体的かつ真摯にご回答頂きますようお願い申し上げます。 

1.現大学院に在籍する人文科学研究科大学院生の研究環境の保障について

 現在在籍する大学院生が、この東京都立大学大学院を受験した際の人文科学研究科の案内には、「学生の幅広い関心に対応できるように」「第一級の研究実績を持つ豊かな人材をスタッフに揃えて」いる、と記されています(東京都立大学大学院人文科学研究科 案内2002−2003)。事実、人文科学研究科は、国内はもとより国際的にも著名なスタッフを多く揃えており、国内最高水準の研究・指導体制を備えています。

 私たちは、このような東京都立大学大学院の研究環境と、「第一級の研究実績を持つ」スタッフを師と仰げることを動機として、数ある大学院の中でも東京都立大学の大学院を選び、入学してきました。これは、専門的な研究の場である大学院においては、指導を受ける教員によって、自分の研究も、研究者としての将来も大きく左右されるためです。とりわけ、研究を続けていく上で日本でも必須の条件となりつつある博士学位の取得(すなわち、博士学位論文の作成)においては、指導教官を初めとする研究・指導体制のあり方が大きな鍵を握ります。にもかかわらず、もし「新大学」において教員数が大幅に削減されたり、配置転換されたりすることによって直接の指導を受けられないような事態に至った場合、まして、専攻が消滅し、大学院生に対する専門的な指導を行うことが全く不可能となることは、人文科学を専攻する大学院生にとって研鑚半ばで道を失うことであり、それはすなわち「将来」を失うことを意味します。これは極めて重大かつ深刻な問題です。

 また、大学院生の募集要項に上記の研究・指導環境を掲げていた以上、現在在籍する大学院生(2003年度以前の入学者)が修了する前にその環境を失わせることは、これまで授業料を納めてきた大学院生及びその保護者に対する契約違反なのではないでしょうか。私たちは、現在在籍する大学院生は、改革後も現在の指導教官から制度的に保障された指導を継続して受ける権利があるものと考えますし、そのためには「新大学」においても現在の専攻の枠組みが尊重される必要があると思います。この点についてどのようにお考えでしょうか。この問題は、私たち人文科学を研究する大学院生にとってまさに死活問題ですので、慎重にお答えいただきたく存じます。

2.現大学に在籍する大学院生の在学期間の保障について

 現在、東京都立大学大学院では、修士課程は最長6年(休学期間を含む)、博士課程は最長9年(休学期間を含む)の在籍が、入学時の規定によって認められています。とりわけ人文科学という学問分野においては、外国留学や資料の収集・分析の必要性から、また、原則として学生・院生がそうした研究活動を個人で行うという事情から、研究論文の執筆に膨大な時間と労力を必要とします。これまで、人文科学研究科の大学院生の多くが、よりよい研究を求めて、止むを得ず最低修学年限を超過して論文(修士論文・博士論文)を執筆してまいりました。したがって、現在在籍する院生に対しては、大学改革後も上記の在籍期間が保障されること、そしてその間、現在の指導体制や研究環境が実質的に保障される必要があります。私たちは、このような人文科学特有の問題が、大学管理本部においても十分に考慮されているものと考えてはおりますが、実際にどのような見通しをお持ちなのか、お答えいただきたく思います。 

3.大学院生からの意見聴取および大学院生に対する説明について

 929日の都議会文教委員会において、大学改革についての検討過程をオープンにし、都民の意見をより広く汲み取るべきとの委員からの意見に対し、大学管理本部は、専門家や学生の意見も聞かれた旨、答弁されたと聞き及んでおります。しかしながら、少なくとも私たち人文科学研究科の大学院生としましては、今次計画に私たちの意見・希望が反映されているとの実感がありません。大学管理本部が答弁の中で言及された「学生の意見」とは、いつ、どの学生から聞いた意見だったのでしょうか。また、その意見は、具体的にどのように現在進行中の計画に反映されているのでしょうか。もし、これまでに聴取された学生の中に、人文科学研究科の学生がいなかった場合、もしくはごく少数であった場合には、改革から直接大きな影響を被る当事者としての私たちから広範に意見を聴取し、今次改革がよりよいものとなるよう模索していく必要があるように思いますが、いかがでしょうか。在籍中の大学院生に対する説明の場、および大学院生からの意見聴取の場を設けるご予定はありますでしょうか。

 また、その際には、このたび結成された私たち人文科学研究科院生会が、本研究科に所属する大学院生の総体としての希望をお伝えする窓口として、十分ご期待に添えるものと考えております。「学生の意見を聞く」という大学管理本部の基本的なスタンスから拝察しますと、私たち人文科学研究科院生会から改革に対する意見を聴取する機会を設けていただけるものと思いますが、この点について、いかがお考えでしょうか。

以上の点について、1022日までに下記あて、文書にてご回答いただけますようお願い申し上げます。なお、この質問状の内容、またこうした質問状を提出したことを、マスコミ各社を始めとして、広く社会に対して公開させていただくことを申し添えます。

宛先
192-0397 東京都八王子市南大沢1−1
   東京都立大学人文科学研究科 国文学科学生・院生室気付         東京都立大学人文科学研究科院生会事務局