2004年4月開学予定の「首都大学東京」について、国の大学設置・学校法人審議会から設置を認める答申がなされ、10月末に文部科学大臣による設置認可がなされた。当弁護団は、かねて現行都立4大学の移行型地方独立行政法人としての「首都大学東京」について憲法23条の定める大学の自治を擁護し学生・大学院生の学ぶ権利を保障し、教職員の権利を擁護する立場から数次にわたる意見を表明した立場から、現時点で明らかになっている問題について次の通り意見を述べる。
1 設置審も指摘した問題点
大学設置・学校法人審議会は、認可する答申にあたり、次のような問題点を指摘している。
(1)既設大学の教育研究資源を有効に活用し、統合の趣旨・目的等が活かされるよう、設置者及び各大学間の連携を十分図りつつ、開学に向け、設置計画(教員組織、教育課程の整備等)を確実かつ円滑に進めること。
(2)名称に「都市」を冠する「都市教養学部」の教育理念を一層明確にし、これにふさわしい特色を持つ体系的な教育課程の編成に一層の配慮をすること。特に分野横断型の「都市政策コース」や「都市教養プログラム」等、要となる科目群の教育内容について独自性が十分発揮されるよう、その充実を図ること。
(3)関係組織間の適切な連携の下、単位バンクシステムや学位設計委員会等の新たな試みが円滑かつ有効に機能するよう努めること。
(4)学生の選択の幅を拡大するコース制等を導入するに当たっては、大学設置基準第19条に掲げる教育課程の体系的な編成に十分留意すること。また、学生が科目等の選択を円滑に行えるよう、きめ細やかな履修指導体制の一層の充実を図ること。
(5)平成18年度開設に向けて構想されている新たな大学院については、新大学の趣旨・目的等にふさわしいものとなるよう十分に配慮した上で、その構想を可及的速やかに検討し、示すこと。
これらは、@現行4大学関係者との連携の欠如、A内容上従来の学問体系との関係が不明確、B単位バンク等と教授会の単位認定権限との関係の問題、C不明確な学問内容と学生の学ぶ権利の問題、D大学院の設置が遅れる問題、などこれまでに教職員組合や当弁護団が指摘してきた問題点と重なるものである。当局は、こうした指摘に誠実にこたえる必要があるし、改善がみられないときは、設置認可上の重大な問題となることがあらためて明確に示されたものである。
2 定款(案)の問題点
公立大学法人の定款(案)が現在示されているが、少なくとも次の点については重大な問題がある。
(1)目的(第1条)
案では、「大都市における人間社会の理想像を追求」し、「広い分野の知識と深い専門の学術を教授研究する」とともに「大都市に立脚した教育研究の成果をあげ」「豊かな人間性と独創性を備えた人材を育成し」「都民の生活や文化の向上に寄与することを目指す」としている。
「都民の生活や文化の向上に寄与する」ことを目指すことは当然であるが、首都東京にも島嶼や山村などが広く存在しており、都民の生活や文化は多種多様なのであるから、目的において「大都市」を強調することは疑問である。
(2)運営の基本原則
案では、運営の基本原則についての規定はない。
しかし、憲法23条により学問の自由と大学の自治が保障されていることを考慮し、運営の基本原則についての規定を置くべきである。その際には設立団体は、「公立大学法人に係るこの法律の規定に基づく事務を行うに当たっては、公立大学法人が設置する大学における教育研究の特性に常に配慮しなければならない」(地方独立行政法人法69条)との法律の規定や、定款の作成や認可等に際し、「憲法が保障する学問の自由と大学の自治を侵すことがないよう、大学の自主性・自律性を最大限発揮しうるための必要な措置を講ずること」とされる地方独立行政法人法案に対する附帯決議(2003 年7月1日参議院総務委員会)が参考にされるべきである。
(3)役員の職務及び権限(第9条)
案では、理事長が「法人を代表し、その業務を総理する」(9条1項)とした上、大学の教育研究に関する重要事項を審議する教育研究審議会(地方独立行政法人法77条)の審議事項についても、教育研究審議会の議を経て「決定する」としており(9条3項)、合議制の保障がない。
しかし、大学の教育研究に関する重要事項の決定は慎重に行うべきであるので、理事会を置くこととし、理事長の権限行使は理事会の議を経て行うことを明記し、理事長の独断に陥ることを防止すべきである。
(4)学長の任命(11条)
学長は、理事長と別に任命することとし(1項)、学長選考会議の選考に基づいて理事長が任命する(2、3項)が、選考会議は経営審議会で選出される者3名、教育研究審議会から3名で構成される(5項)。
しかし、このような構成では学長の選考について経営審議会の意見と教育研究審議会の意見とが半々となり、教授会中心の大学の自治を侵すことになり妥当ではない。学長は、可能な限り大学構成員の総意により選考されるべきである。
(5)教育研究審議会(19条〜22条)
教育研究審議会は中期目標、中期計画、年度計画、教育研究に係る重要な規定の制定及び改廃、教員の採用選考、教育研究に係る自己点検及び評価、教育課程の編成方針、学生の入学卒業修了その他学生の在籍に関する方針及び学位に係る方針等を審議するとされる(22条)。
そして現時点で当局からは、教員人事については経営審議会と教育研究審議会の下に人事委員会を置いて審議する計画が伝えられている。
しかし、そもそも大学の自治(憲法23条)は、大学での自由な研究教育を確保するために、大学の内部の組織・運営を大学の自主的な決定に委ね、外部からの干渉を排除することを保障しようとしたものであり、その主要な内容として人事の自治と管理運営の自治があげられてきた。教員人事や教学の編成および学生の在籍に関する方針に関する事項は、大学の自治の中心的な内容として、法人ではなく大学組織が担うべきものである。
学校教育法でも、大学には重要な事項を審議するため、教授会を置かなければならない(第59条)と規定しているところ、人事や教学の編成および学生の在籍に関する方針は大学にとっても最も重要な事項であることは明らかであるから、定款案が教育研究審議会の審議事項としている事項はまさに法人ではなく大学の教授会の権限とされるべきものである。
したがって、定款案が教育研究審議会の審議事項としている事項については、法人と大学の組織構成上、大学の教授会において十二分に実質的な審議と方針確立が行われるべきものであり、法人の教育研究審議会における審議はあくまで教授会における審議と方針を前提にこれを尊重したものとされなければならない。もしこのような教授会の実質的な権限が尊重されず、もっぱら教育研究審議会において審議されるような場合には、そのような定款あるいは規則は憲法23条、学校教育法59条に違反するものである。
3 認可条件と大学の自治をふまえた抜本的修正を
以上の通り、当弁護団がこれまで指摘してきた問題点の多くは大学設置・学校法人審議会においても認可の条件として付されたものである上、明らかにされている定款案も憲法・学校教育法に照らしあまりにも問題が多い。
したがって、当局は定款案と法人、大学の組織・機構について、本意見書の指摘をふまえて抜本的に修正をすべきである。
以 上
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