【目 次】第1 はじめに
第2 東京都立4大学の概要
1 東京都立大学
2 都立科学技術大学
3 都立保健科学大学
4 都立短期大学
第3 都立4大学改革論議の経過
1 石原都知事主導の改革論議
2 大学関係者が参加した準備
3 2003年8月の急変
4 「都立の新しい大学の構想」の内容
@現代に適合した人間教育のための全寮制「東京塾(仮称)」
A大都市の特色を活かした教育の実現
B大都市東京全体がキャンパス 都心方面へのキャンパス展開
C「選択と評価」による新しい教育システムの導入
D教員組織・人事制度の改革
第4 新大学は現行4大学を継承する
1 現行4大学から新大学への移行
(1)新大学は現行4大学の学生・大学院生の教育責任を担う
(2)新大学は現行4大学の教員組織によって担われる
(3)新大学は現行4大学の施設・設備を用いる
(4)現行4大学の権利義務は新大学が承継
(5)手続としても廃止・新設手続はとられず
(6)新大学は移行型地方独立行政法人
2 地方独立行政法人法の趣旨と石原都知事の主張の誤り
(1)目的は「事務及び事業の確実な実施」
(2)公表と自主性尊重こそ運営の基本原則
(3)自治体の業務の上の権利義務の承継
@職員の引継
A権利義務の承継
(4)公立大学法人の自治権の尊重
3 教職員の身分の承継について
(1)教職員の雇用と身分の承継
(2)教職員募集規定もなく国立大学でも全員承継
(3)承継の過程で差別・選別は許されない
(4)大学の権利義務等の承継
(5)労働条件は基本的に維持されるべきもの
第5 大学の自主性・自律性を尊重した改革こそ必要
1 法が予定する大学改革のあり方
2 大学の自主性自律性の尊重こそ重要
(1)公立大学法人は国立大学法人に準じた制度
(2)大学の自主的自律的改革こそ重要
(3)許されない石原都知事の主張
3 現行4大学での審議無視は都条例に反する
4 新大学の教育内容と教育研究組織の問題
第6 各界の批判にさらされる石原都知事の手法
1 銀行に対する外形標準課税無効裁判
2 圏央道工事の行政代執行の停止決定
第7 国際的基準からも逸脱した石原都知事の手法
第8 終わりに
第1 はじめに
大学の独立法人化にともない、都立大学でも、その実施がなされようとしている。この独立法人化について、東京都の新大学設立本部は、 大学の廃止と新大学の設立であると言明して、これまでの都立大学の行なってきた改革の努力と成果を否定、無視をして独立法人化を実行しようと している。 しかしながら、現在要請されている事態は、独立法人化にともない、新しい大学法人という法人格を設立するということである。 このことにともない、結果として、東京都が直接運営するこれまでの大学が廃止されるということである。そのことは、基本的には、 法律上の形式の変更ということであり、実態は、旧大学から、新大学法人に、人的、施設的権利義務を含む、大学機能の全てを承継するということである。 そして、大学改革は、引き継がれた大学法人が、自律性、自主性を持って遂行するということである。
本意見書では、そのことを法理的に明かにして、独立法人化に伴う大学改革のあり方につき意見を表明することとする。
第2 東京都立4大学の概要
東京都立4大学の概要は次の通りである。
1 東京都立大学
1991年4月に、目黒区内の旧キャンパスから八王子市南大沢に移転した。1949(昭和24)年に都内で唯一の公立の総合大学として発足し、 現在は人文・法・経済・理・工の5学部21学科がある。開学当初から夜間課程(第二部・5年制)があり、大学院は、現在、人文科学、社会科学、 理学、工学、都市科学の5研究科修士課程28専攻・博士課程27専攻である。学部学生が約5000名大学院生が約1500名在籍し、専任教員は420名である。
2 都立科学技術大学<
日野市旭が丘にあり、都立工業短期大学と都立航空工業短期大学が1972(昭和47)年に統合された都立工科短期大学が1986(昭和61)年に 4年制に移行してできた。学部は工学部1学部4学科(機械システム工学、電子システム工学、航空宇宙工学、生産情報システム工学)で、学部 学生数は定員720名である。大学院は工学研究科、システム基礎工学専攻、インテリジェントシステム専攻、航空宇宙工学専攻があって収容定員216名 である。教員は56名である。
3 都立保健科学大学
荒川区東尾久にあり、前身の都立医療技術短期大学(1986(昭和61)年開学)を継承して1998(平成10)年4月に開学した、都内唯一の総合的 な保健医療系の4年制大学である。学部は保健科学部で、看護、理学療法、作業療法、放射線の4学科があり、収容定員 800名、大学院 (保健科学研究科)(修士課程)は、看護学、理学療法学、作業療法学、放射線学の4専攻があって収容定員60名であり、教員は66名である。
4 都立短期大学
昭島キャンパス(昭島市東町)と晴海キャンパス(中央区晴海)があり、本科に、文化国際、経営情報、経営システム、都市生活、健康栄養 の5学科があり、収容定員1180名、専攻科は、都市生活学、健康栄養学の2専攻があり、収容定員10名であり、教員は59名である。夜間課程を設置し、 社会人入試を実施するほか、公開講座や社会人聴講生制度を持つ。
第3 都立4大学改革論議の経過
1 石原都知事主導の改革論議
今日の都立4大学の改革論は石原都知事の主導で始まった。1999年春当選した石原都知事は、2000年1月以降都立4大学について、夜間部を 廃止し私学に売却することもあり得る、大学から東京の教育を変える、産業活性化のための産学協同、財政効率化・大学の独立採算性などの発言を 繰り返した。
2000年8月、都知事は都庁内に「大学等改革担当」を設置し、9月には自ら荻上紘一都立大総長に対しB類(夜間部)廃止などの「改革案」 を示した。12月に発表された東京都の「東京構想2000」では大学の独立行政法人化を提言し、2001年2月には大学等改革担当室が「東京都大学 基本方針」を発表し、4大学の「再編・統合」を打ち出した。
2001年11月大学管理本部は「東京都大学改革大綱」を発表し、4大学を統合し短大を廃止した上で2005年4月に新大学を発足させることと、 産学公連携センターの設置や都政との連携、独立行政法人化、教職員の非公務員化、法人の長と学長との分離、評議会・教授会権限の限定、 任期制の検討などを提起した。この「大綱」は2003年7月までの基調となっていた。
2 大学関係者が参加した準備
矢継ぎ早に進められた4大学改変の動きであったが、2000年1月に都立大学が改革案策定のための新たな体制をつくり「東京都立大学 改革計画2000」を策定するなど、大学側による主体的な改革構想の策定に向けての努力と4大学の連携の努力が続けられた。大学と教職員の 懸命の努力が反映して、2003年7月までは大学管理本部主導ではあったが、4大学の代表者を含めた議論の枠組みが一応確保はされていた。 2001年3月に発足した大学改革推進会議は、都教育長、総務局長とともに4大学総長・学長などが参加していたし、2002年5月「東京都大学 改革大綱」を受けて設置された都立新大学準備委員会には、教育長、大学管理本部長とともに、4大学総長・学長がメンバーとして参加してきた。
新大学準備委員会は、人文・法・経済・理・工・保健科学の6学部、人文科学研究科・社会科学研究科・理学研究科・工学研究科・ 都市科学研究科・保健科学研究科などの大学院、法科大学院・ビジネススクール・先端技術研究科の設置、学部教育は保健科学の2年生以上を 除き南大沢キャンパス、教員定数515名(現4大学867名)、入学定員数1500名とされていた。
4大学の教職員は、理事長・学長の分離や経営部門の権限の強さなどの問題点を批判しつつも、現在在籍する学生・院生への教育責任 や将来入学してくる学生・院生にとって少しでもよい大学にしていくための準備作業に努力し、人員の再配置計画、教育課程編成、新しい学部 教育体制に必要な時間割の検討、教室等の確保計画、研究室の再配置計画など2005年4月発足に向けての作業にあたり、新大学準備は最終段階を 迎えていた。
3 2003年8月の急変
ところが2003年8月1日、石原都知事はこうした経過を完全に無視し、記者会見で突然、今まで検討・準備されてきたものとは学部構成・ キャンパス配置など全く異なる「都立の新しい大学の構想」を発表した。また大学管理本部は現大学総長・学長に対しそれまでの大学側も参加した 検討組織は前日をもって廃止し大学代表者を加えない新たな検討組織を立ち上げると通告した。
その後管理本部は、現在進めようとしていることは「大学の統合」や「新大学への移行」ではなく4大学の廃止と新大学の設立であると 主張している。
4 「都立の新しい大学の構想」の内容
「都立の新しい大学の構想」では、「大都市を活かした教育の実現」などがうたわれ、南大沢キャンパスに都市教養学部と都市環境学部、 日野キャンパス(現科学技術大)にシステムデザイン学部、荒川キャンパス(現保健科学大)に保健科学部を配置するとともに全寮制(50人)の「 東京塾」を設置するなどとしている。
@現代に適合した人間教育のための全寮制「東京塾(仮称)」
「塾長と学生との交流・対話を通じて、人格形成と個性・独創性を育む。」「アジアの留学生との交流による異文化理解」をはかる。 「塾長予定者を選任して、具体的な設計を行う。」としている。
A大都市の特色を活かした教育の実現
「都市の文明」を学ぶ教養教育として「都市教養学部(仮称)」を設置し、都市文化、都市経済、都市工学など「都市の文明」を全学部 の学生に教育するとし、大都市の課題に対応した学部等の再編、新学部として「都市環境学部、システムデザイン学部、保健福祉学部」の設置が うたわれている。
B大都市東京全体がキャンパス 都心方面へのキャンパス展開
「都市再生、産業活性化を視野に入れた都心方面へのキャンパス展開」を検討する、「大都市をキャンパスにした現場重視の体験型学習 の導入」「都政等の最前線や東京に集積する文化芸術施設での現場実習」などがうたわれている。
C「選択と評価」による新しい教育システムの導入
「学生がキャリア形成を考えて、自由にカリキュラムを設計」するとし、他大学等で取得した単位を認定・登録する「単位バンク(仮称)」 の設置、成績、卒業判定への「外部や社会による評価の導入」がうたわれている。
D教員組織・人事制度の改革
「教員組織の簡素化、任期制・年俸制の導入と業績主義の徹底」がうたわれている。
第4 新大学は現行4大学を継承する
石原都知事と大学管理本部は、「都立の新しい大学」は現行4大学の統合ではなく現行4大学の廃止と新大学の設置であると主張する。 しかし以下の通りあらゆる点からみて新大学は現行4大学を継承するものである。
1 現行4大学から新大学への移行
「新しい大学」は、その実態において、次の通り現行都立4大学が移行したものである。
(1)新大学は現行4大学の学生・大学院生の教育責任を担う
現行4大学に在籍する学生・大学院生に対する教育責任は、当然新大学に継承される。もしこれを承継しないようなことがあれば、 大学設置者としての責任の重大な懈怠として、非難を免れない。しかも学生・大学院生の身分は、同時に新旧2つの大学の籍を有することは 許されないし、逆に新旧2つの大学の籍の間に空白の日を設けることも許されない。新大学設立の前日までは旧大学に籍を有し、新大学設立の 当日をもって当然に新大学に籍を有することとされなければならない。
(2)新大学は現行4大学の教員組織によって担われる
「新しい大学」は、現存する現行都立4大学の教員組織によって担われるものであり、新しい大学を設置するものではない。もし教員を 新しく公募して新規採用した上で認可申請をして審査を受けるとすれば、1人1人の教員について個別に審査の対象とされなければならないが、 かかる手続を行うことは実際には予定されていないし、現実に開設予定日までにこれを終えて入学試験を実施することはとうてい不可能である。
(3)新大学は現行4大学の施設・設備を用いる
「新しい大学」は、現存する現行4大学の施設・設備を資源として用いることが当然に予定されているものである。新たに大学の施設・ 設備を調達するものではない。
(4)現行4大学の権利義務は新大学が承継
「新しい大学」は、現行4大学について発生した権利義務を承継することが当然に予定されている。そうでなければ、都立4大学をめぐる 権利義務関係について大混乱を生じる。
(5)手続としても廃止・新設手続はとられず
大学設置手続としても、現行4大学の廃止手続はとられていないし、純粋な新設大学として認可を受ける手続がとられる予定もない。 「現行4大学を廃止し新大学を設置する」という言い方は、現行4大学の有する人的物的資源が実質的に新大学に継承されるという条件が満た される場合にのみ可能なのであり、まさに現行4大学から新大学への移行に他ならない。
(6)新大学は移行型地方独立行政法人
以上の通り、あらゆる点からみて新大学は現行4大学が行っている業務を継承する移行型地方独立行政法人として設立されるものであり、 それ以外の法的手続はとり得ないものである。
2 地方独立行政法人法の趣旨と石原都知事の主張の誤り
地方独立行政法人法は、地方自治体の事務・事業を独立行政法人に移管することを可能にした法律であるが、この法律の趣旨にてらして 現在の石原都知事の主張の問題点を総括的に検討すると次の通りである。
(1)目的は「事務及び事業の確実な実施」
地方独立行政法人法はこの制度の目的を「事務及び事業の確実な実施」と「住民の生活の安定並びに地域社会及び地域経済の健全な発展」 だと規定している(1条)。したがって公立大学法人を設立する場合にも、その事務及び事業は確実に実施して住民生活や地域社会の安定・健全な 発展をはからなければならない。
しかるに今回の石原都知事の手法は、学生・大学院生・受験生の勉学環境への不安をもたらし、教職員の雇用不安をあおり、地域社会に混乱を もたらしている。このように住民の不安をおこし地域社会に混乱をもたらすことは、法がまったく予定していないところである。
(2)公表と自主性尊重こそ運営の基本原則
運営は「業務の内容を公表すること」や「業務運営における自主性」に配慮することが基本原則とされる(3条)。したがってその設立も、 大学関係者はもちろん広く都民に構想や準備状況を公表しつつ、しかも公立大学法人の自主性に配慮して行われるべきである。
ところが石原都知事と大学管理本部は、関係者に箝口令をひいて全体の教職員の配置も明らかにしないまま、実際に公立大学法人の教学を 担っていく大学関係者の意見を聴かずに進めようとしており、法の趣旨に真っ向から反する手法である。
(3)自治体の業務の上の権利義務の承継
地方自治体が行っている業務を引き継ぐ地方独立行政法人の設立については、職員の引継や権利義務の承継について規定がある。都立4大学 を統合して都立新大学を設立する際には、当然これらの規定にしたがうべきである。
@職員の引継
移管される業務を行う自治体組織の職員は、別に辞令を発せられない限り当然に地方独立行政法人の職員となる(59条)。この「別に辞令」 とは、免職などは想定されず、別の事務部門に配置替えになる場合を想定したものである。したがって公立大学法人への移管の際は都立4大学に 勤務していた教職員の雇用と身分は当然に承継されるべきものである。
A権利義務の承継
自治体が大学に関して有する権利及び義務は、原則として公立大学法人が承継する(66条)。したがって、地方独立行政法人への移管と いう組織上の行為によって対外的な義務を消滅させることは許されず、雇用関係はもちろん、学生・大学院生に対して負っている教育上の一切の 責任は公立大学法人に承継されなければならない。
(4)公立大学法人の自治権の尊重
公立大学法人に関しては、憲法23条の保障する学問の自由と大学の自治が守られなければならず、地方独立行政法人法の成立の際の付帯決議 でも「公立大学法人の設立に関しては、地方公共団体による定款の作成、総務大臣及び文部科学大臣等の認可等に際し、憲法が保障する学問の自由と 大学の自治を侵すことがないよう、大学の自主性・自律性を最大限発揮しうるための必要な措置を講ずること。」とされている。
大学教職員の意見を聴こうとしないで都知事が強権的に進めようとする手法は、法の趣旨にまったく反するものである。
3 教職員の身分の承継について
地方独立行政法人化に伴う手続が実質的に大学の承継であるということを最も端的に明らかにしているのは、大学を構成している最も 本質的要素である教職員が全体として新大学に承継されるということである。以下詳しく論べる。
(1)教職員の雇用と身分の承継
法は「移行型一般地方独立行政法人の成立の際、現に設立団体の内部組織で当該移行型一般地方独立行政法人の業務に相当する業務を行うもの のうち当該設立団体の条例で定めるものの職員である者は、別に辞令を発せられない限り、当該移行型一般地方独立行政法人の成立の日において、 当該移行型一般地方独立行政法人の職員となるものとする。」(地方独立行政法人法59条2項)と規定している。公立大学は、この移行型一般 地方独立行政法人に含まれる。法律上、公立大学の教職員は、当然、新大学法人に全員承継されることとなる。当然、承継にともない、個別の同意、 辞令といった手続はなされない。
そのことは、法律が審議された国会答弁において、「これは、設立団体の業務と同一の業務に従事する者につきましては、当該地方独立行 政法人の職員として引き続いて身分を自動的に保有しつづけることができるという形を法律上措置したものでございます。」 (参院法務委員会2003.7.1、森清・総務省自治行政局公務部長)と全面的に確認されている。
またこの時の国会答弁では、身分の承継にあたり、個々の同意は不要であること、移行にあたっては関係者の十分な話し合いと意思疎通が 求められることが次の通り確認されている。
「同意を不要とするこの取扱は、国の独立行政法人に関わる各個別法における取り扱いと同様の取り扱いとなっているものでございまして、 法律的な問題はないと考えておりますけれども、なお中央省庁等改革基本法第41条の規定に関連する部分でございますが、地方独立行政法人への 移行が行われる場合には地方独立行政法人の設立前に関係者が十分な話し合いをされて、意思疎通を図りながら移行をされていくものではないかと いうふうに考えております。」
条文上「別に辞令を発せられない限り」という条項はその意義が限定されており、「@(独立行政法人に承継せず)〇〇省内で他の部局・ 機関へ移動させるという〇〇省の辞令、A独立行政法人には承継されるが、「相当の職員」にはならない場合の独立行政法人の辞令」の2種 (独立行政法人制度の解説・独立行政法人制度研究会編 松尾剛彦内閣中央省庁等改革推進本部事務局参事官補佐)とされている。いずれにしても、 雇用・身分の承継については、揺るぎのないところである。
このように、教職員の身分は新大学に自動的に承継されるのである。
(2)教職員募集規定もなく国立大学でも全員承継
実際に、地方独立行政法人化にあたっては、国鉄改革法23条のような、職員募集や、職員となる者の選定・名簿作成といった特別規定を 有しない。国鉄改革の場合を除いて、この間の民営化、独立法人化においては、全員の雇用が承継されているのである。そのことは、前記公立大学 法人の設立と同様の法律が制定されて、規定上も、次のとおり明確化されているところである。
国立大学法人法は、「別に辞令を発せられない限り、国立大学法人等の成立日において、それぞれ同表のした(右)欄に掲げる国立大学法人等 の職員となるものとする」(国立大学法人法付則第4条)とし、国立病院の場合、「機構の成立の際現に厚生労働省の部局又は機関で政令で定めるも のの職員である者は、厚生労働大臣が指名する者を除き、別に辞令を発せられない限り、機構の成立日において、機構の相当の職員となるものとする」 (独立行政法人国立病院機構法付則第2条)とされている。特殊法人の場合には、すべての特殊法人に同様の規定が制定されている。たとえば、 日本育英会の場合、「機構の成立の際現に文部科学省の部局又は機関で政令で定めるものの職員である者のうち、文部科学大臣の指定する官職を 占める者は、別に辞令を発せられない限り、機構の成立日において、機構の職員となるものとする」(独立行政法人日本学生支援機構法付則第2条)と 規定されている。
(3)承継の過程で差別・選別は許されない
この承継の過程で、差別・選別があってはならないことは、国会審議においても、再三にわたり確認されてきている。
例えば、労働組合の活動家とか、批判的な発言者にたいして、配転命令を事前にだしておいて、自治体職員から排除しようとすることなどは ないかとの質問に対して、「これは先ほど公務員部長も法律の規定のご質問でご説明したと思いますが、地方公共団体から公務員型に移行する場合、 非公務員型に移行する場合も、何ら辞令が発せられることなくその相当の職に引き継がれるというのが法律で規定されていることでございまして、 基本的には、そのまま移行するということになろうかというふうに考えております。ご懸念のように、特定の者を自治体の職場から恣意的に排除する ためにあえて地方独立法人制度を利用するとか導入するということは、全く考えていないところでございます」(畠中政府参考人総務省自治行政 局長・2003.6.3衆院総務委員会)と答弁された通りである。
(4)大学の権利義務等の承継>
その上で重要なことは、これらの教職員の身分と雇用の承継が、大学全体の承継と深く連動しているということである。法は新大学がこれ までの大学の研究成果をひきつぎ、大学が承継されて設立されるものであることを、明かにしている。
地方独立行政法人法第66条は「移行型地方独立行政法人の成立の際、当該移行型地方独立行政法人が行う業務に関し、現に設立団体が 有する権利及び義務(当該移行型地方独立行政法人の成立前に設立団体が当該業務に相当する業務に関して起こした地方債のうち当該移行型地方 独立行政法人の成立の日までに償還されていないものに係わるものを除く。)のうち政令で定めるところにより設立団体の長が定めるものは、当該 移行型地方独立行政法人の成立の時において当該移行型地方独立行政法人が承継する。」と規定している。
このような権利義務の包括的承継は、独立行政法人制度の当然の前提であり、この点に関する国会審議もまた、そのことを前提にして、 承継後の独立行政法人のあり方につき論議されている状況である。
(5)労働条件は基本的に維持されるべきもの
新大学が法的には現行4大学を承継する移行型地方独立行政法人として設立される以上、労働条件の一方的な不利益変更は原則として許されない。
民間の会社分割の際にも、労働契約承継法によって労働契約が承継されることとされている。また使用者が労働条件を一方的に労働者の不利益に 変更することは原則として許されないと解され、最高裁判例が確立している。また地方独立行政法人法成立の際の参議院附帯決議も「地方独立行政法人 への移行等に際しては、雇用問題、労働条件について配慮し、関係職員団体又は関係労働組合と十分な意思疎通が行われるよう、必要な助言等を行う こと。」としている。
したがって、移行にあたっては労働条件は基本的に維持されるべきものであり、職員団体・労働組合と十分な協議をつくさないまま一方的に 労働条件を不利益に変更することは許されない。
第5 大学の自主性・自律性を尊重した改革こそ必要
1 法が予定する大学改革のあり方
このような大学承継の立場に立った大学改革のあり方は次のように為されなければならないのである。ここではまず、公立大学法人に関する 国会審議の内容を紹介する。
「大学は自律性それから自主性が大切でございます。この中期目標に関しましては、これは、知事がやりなさいと一方的に押し付けるのでは 決してございません。この公立大学法人の意見を聞いて、その意見を配慮する仕組みとなっております。地方独立行政法人法案69条並びに78条では それが担保されているのではないかと思っております。また、制度の措置だけでなく、運用においては、学問の自由、大学の自主性、自律性が損なわ れることのないように、設立団体は大学における教育研究の特性を尊重しなければならないという規定もございます。」(池坊大臣政務次官2003.6.3 衆院総務委員会)
「この制度は、国の場合も同じなんですが、できるだけ国そのものが、地方団体そのものがやらなくてもいい、しかし民営化になじまない、 こういうものについて自立的、弾力的なやり方ができるようにしよう、できるだけフリーハンドを与えよう、こういう制度なんですね。したがって、 国の場合も、国会や役所の関与は極めて限定的なんですよ。チェックは事後の評価なんですよ。だから、評価委員会をつくりまして、第三者機関の 評価委員会でやってもらう、こういうことでございます。そういう意味では、地方の場合にも、地方の場合にはこれは大統領制ですから、国と少し違う ので、議会の関与を基本的なことは幾つか決めておりますけれども、それ以外は余り関与してもらわないようにしよう。もともとそういう制度なん ですよ。」(片山国務大臣2003.6.3衆院総務委員会)
「これは、あくまでも大学でありますから、大学の改革という視点で、文部科学省としては、国立大学の法人化に準じて、地方自治体が 法人化するかしないかを選択されましたら、やはり国立大学とそして地方の大学と、これは大学には違いがないわけでございますので、大学改革の 視点で、大学の運営をこれから大幅に裁量を持ちながらやっていただくということで、このような方針が出ておるわけであります。」(河村副大臣 2003.6.3衆院総務委員会)
これらの点を国会の意思として明確にするために、衆参議院の付帯決議では次の通りあらためて明確にされている。
「衆院付帯決議 5 公立大学法人の定款の作成、総務大臣および文部科学大臣等の認可に際しては、憲法が保障する学問の自由と大学自治を 侵すことのないよう、大学の自主性、自律性が最大限発揮しうる仕組みとすること。」
「参院付帯決議 6 公立大学法人の設立に関しては、地方公共団体による定款の作成、総務大臣および文部科学大臣等の認可に際し、憲法が 保障する学問の自由と大学自治を侵すことがないよう、大学の自主性・自律性を最大限発揮しうるための必要な措置を講ずること。」
都立大学等の法人化は、当然、このような「憲法が保障する学問の自由と大学自治を侵すことがないよう、大学の自主性・自律性を最大限 発揮しうる」ことを求めた国会答弁、付帯決議の内容にしたがってなされるべきなのである。
2 大学の自主性自律性の尊重こそ重要
(1)公立大学法人は国立大学法人に準じた制度
公立大学法人の設立が、国立大学法人の設立と軌を一にしたものであり、相互に関連したものであることは明らかである。その点では、 国立大学法人の設立の手続は十分に参考にされるべきである。
そのことは2002年8月「地方独立行政法人制度の導入に関する研究会報告書」が、「公立大学の法人化についても、国立大学法人(仮称)の 法制化の検討状況を踏まえつつ、研究教育機関たる大学の性格に応じて必要な特例を設ける必要がある。」とされて、公立大学協会が、「公立大学 法人化への取組」において、国立大学法人との連携につき明らかにしている通りである。
国会審議においてもこの点は次の通り再三確認されている。
「公立大学法人と国立大学法人との制度設計の違いという点でございますけれども、公立大学法人制度におきましては、国立大学法人の制度 設計等に倣いまして大学の教育研究の特性を踏まえた特例を設けておりまして、その基本的な制度設計の考え方は国立大学法人制度と同じだ、こう 考えております。」(遠藤政府参考人2003.6.3衆院総務委員会)
「私どもの地方独立行政法人法案の中に公立大学が入っていることは事実でございますが、これは、国立大学の言葉は別として独法化に準じた 措置をこの法案の中で講じようということで、公立大学の特性に応じた例外措置につきましてもこの法案の中できちっと書いておりますし、考え方と しましては、国立大学の独法化の措置と、公立大学については基本的に変わるところではございません。」(畠中誠二郎政府参考人2003.7.1参院総務 委員会)
(2)大学の自主的自律的改革こそ重要
国立大学法人の設立にあたり重視されるべき中心点は、改革にあたり大学が自律的に対応し改革を進めることである。
まず、目的について、法案提案理由説明は、「現在、国の機関として位置づけられている国立大学や国立高等専門学校等を法人化し、自律的な 環境の下で国立大学をより活性化し、優れた教育や特色ある研究に積極的に取り組む、より個性豊かな魅力ある国立大学を実現することをねらいとする ものであります。」とし、法案においても、第3条に「この法律の運用にあたっては、国立大学及び大学共同利用機関における教育研究の特性に常に 配慮しなければならない」と規定されている。
このような、大学の自主性、自律性を重視する見地は、国会審議の場でも、十分に確認されることとなった。
「国立大学の法人化につきましては、平成11年4月の閣議決定におきまして、国立大学の独立行政法人化については大学の自主性を尊重 しつつ大学改革の一環として検討するとされたことを受けまして、独立行政法人制度を活用しながらも、教育研究の特性を踏まえ、大学の自律的な運営を 確保することにより個性豊かな国立大学を創造するという大学改革の観点に立って検討を行ってきたものでございます。このため、国立大学法人に つきましては、学長の任免あるいは中期目標の設定などにつきましては、大学の自主性を尊重することにより、大学の教育研究活動が各国立大学法人の 自己責任の下、自主的、自律的に進められる仕組みとしたものでございまして、独立行政法人通則法に基づく独立行政法人とはしていないところで ございます。」(木谷雅人政府参考人2003.7.1参院総務委員会)
「現在、国会でご審議いただいております国立大学法人法案は、単なる効率化を目的としたものではなく、国による財政措置を前提とした 独立行政法人制度の発足を機に、大学改革の一環として検討してきたものでございます。すなわち、独立行政法人制度の基本的な枠組みを活用しつつ、 大学の教育研究の特性に十分配慮し、さらに、従来、国の行政組織の一部に位置付けられてきたことに由来する予算、組織、人事等に係るさまざまな 規制から外れて、その運営の自律性を高め、教育研究を活性化し、より個性豊かな魅力ある国立大学の実現を図ろうとするものであります。」 (木谷雅人政府参考人2003.7.1参院総務委員会)
まさに「大学の自律的な運営を確保することにより個性豊かな国立大学を創造するという大学改革の観点」、そのことこそが、独立法人化の 最も重要な改革内容である。それらの改革にあたって、国は権力的な強要を一切行なってはならないのである。
この見地は、具体的に、内部組織、学部、学科の編成に際しても大学の自主性が尊重されるとして確認されている。
「法案の立案に当たりましては、このような提言を受けまして、学部や研究科の名称につきましては文部科学省令で規定するということも 検討したわけでございますが、検討の結果、最終的には、教育研究組織の編成を初めとする大学運営につきましては大学の裁量を尊重するという その法人化の趣旨を踏まえまして、学部、研究科等の名称につきましては、文部科学省が法令で規定するということではなくて、中期目標記載事項に 共通する基本的な事項として大学の意見を踏まえた形の中期目標に記載するということを予定していることにしたわけでございます。」 (遠藤純一郎政府参考委員2003.6.26参院文教科学委員会)
「今回の、このたびの法人化によって組織編制における各大学の裁量が拡大をしてまいります。各大学が一層創意工夫をして教育研究の活性化を 図ることを可能にするんだと、こういうことでありますから、このために法人化後の国立大学は、学部、学科については、第一は、学部はあらかじめ大学 から提出された原案に十分配慮した上で中期目標に記載をすることになっておりますし、学科につきましては、各国立大学法人の判断によって弾力的な 編成を可能にすると。こうした各大学が主体的な判断によって弾力的に取り組みをやっていくものでございます。」(河村建夫副大臣2003.6.5参議院 文教科学委員会)
(3)許されない石原都知事の主張
石原都知事の現在の主張は、大学の自主性・自律性を無視して「設置者責任」ですべて決定しようというものである。このような主張は、国会で 論議されてきた独立行政法人制度と大学改革の基本原則に真っ向から反する暴挙である。
東京都は、将来の都立の大学の構成員による改革の検討内容をこそ全面的に尊重するべきである。そのことが、まさに、公立大学法人を設立する とする法律の要請である。
3 現行4大学での審議無視は都条例に反する
新大学が現都立4大学が築いてきた成果を引き継ぎ、「学術の中心」(学校教育法第52条)としての役割を発揮するためには、現都立4大学に おける討議こそが新大学づくりの基礎とされるべきである。
学校教育法第59条は「大学には、重要な事項を審議するため、教授会を置かなければならない。」と規定している。東京都立大学条例も、 第9条第1項において「都立大学の学部及び研究科に教授会を置く。」とし、同条第4項において、「学部の教授会は、当該学部における次に掲げる 事項を審議する。
@ 教育公務員特例法の規定により、その権限に属すること。
A 学科、専攻、学科目、講座及び授業科目の種類及び編成に関すること。
B 学生の入学、退学、休学その他の身分に関する重要なこと。
C 学位の授与に関すること。
D 前各号のほか、当該学部の教育研究及び運営に関する重要なこと。」と規定する。
また、同条例は、総長、学部長、所長、研究科長、事務局長、学部及び研究科の教授会で選出する教授十名、そのほか都立大学所属職員のうちから 総長が必要と認める者からなる評議会を置くことを規定し(第8条)。この評議会が、
@ 教育公務員特例法(昭和24年法律第1号)の規定により、その権限に属すること。
A 学則その他学内諸規程の制定改廃に関すること。
B 学部、学科、研究所及び研究科の設置及び廃止に関すること。
C 学部その他の機関の連絡調整に関すること。
D 前各号のほか、都立大学の運営に関する重要なこと。
を審議する旨定めている。
他の3大学の条例も、同様の教授会の権限を定めている。こうした条例の趣旨にてらし、現行4大学の新大学に移行する際の教学に関する 事項は、現行都立4大学の教授会において十二分に審議されるべきものであると解される。
現在、石原都政が、設置者権限を振りかざして現都立4大学における審議を経ることのないまま新大学づくりをすすめようとしていることは、 こうした都条例の規定に反する手法であり、現都立4大学の英知を結集して新大学づくりをすすめることを妨げるものである。
4 新大学の教育内容と教育研究組織の問題
新大学の教育内容と教育研究組織についても、現行4大学の教職員を中心とする開かれた真剣な検討の結果を十分にふまえるべきである。
10月7日の都立大学総長声明は、「言うまでもなく新大学の設立に反対なのではない。重要なことは、大学およびその構成員と都・管理本部の間で 自由闊達に議論が行われ、合意形成へのていねいな努力が重ねられることであると考える。そうしてこそ豊かな英知を結集することが可能となり、 学生・都民さらに広くは時代と社会の要請に応えうる新大学ができるのだと思う。総長としての私は、このような認識は本学の部局長をはじめ、すべての 教員・職員にいたるまで基本的に共有されているものと確信している。」とした上で「われわれはよい大学をつくるための努力をいささかも惜しまない。 特に、現都立大学を代表しかつ全構成員に責任を負う立場にある者として、私は、都立大学のすべての教職員の一致した協力を得つつ、かつその先頭に 立って、都立の新大学をすべての都民及び設置者の負託に応え、活力と魅力にあふれる充実した教育・研究・社会貢献の場とするためのあらゆる提案を 真摯に吟味し、その実現のために最大限の努力をする所存である。」としている。かかる現行4大学関係者の真摯な努力の成果をふまえてこそ、真の大学 改革が進められ得るものである。
「新しい大学の構想」では、それ以前の大学改革議論のなかでは登場していなかった「Extensionセンター(e-Learningセンター)」の設置が 突如として打ち出された。詳しい内容は都から未だ明らかにされていないが、「新大学の各学部・コース(たたき台)」によれば、同センターは学部とは 異なる系列に属する組織として位置づけられている。しかし、現行都立4大学の関係者の議論をまったくふまえない組織改編は、とうてい都民と学生・ 大学院生の期待に応える改革とはなり得ない。
また都立大学総長声明も今回の「新しい大学」構想に重大な疑問を指摘している。いわゆる「単位バンク制」を導入する意義が見あたらないこと、 外国語を選択とすればそれ自体で大学の質と水準に疑義が呈されることが必至であること、外国語を担当する専任教員が相当数各大学院(学部)に 配置されるべきであること、学部と大学院のあり方の検討を同時に進行させ総合性・一貫性をもったものとして同時に開設すべきこと等である。
こうした指摘や現行4大学の関係者により慎重に検討されてきた構想を十分にふまえた上で、自ら改革を進める意思を表明している大学の自律性 自主性を尊重しながら、道理をつくした開かれた討議と検討によって改革が進められるべきである。国や地方自治体はかかる改革努力を支える環境整備に 努めるべきである。
第6 各界の批判にさらされる石原都知事の手法
石原都知事の強引な手法は、各界から強い批判にさらされている。裁判で問題となった事例だけでも次のようなものがある。
1 銀行に対する外形標準課税無効裁判
銀行に対する外形標準課税無効裁判における判決では、石原都知事の手法自体が違法と評価されている。判決は、東京都の担当部局が法律の 解釈に不可欠な立法資料等の調査を怠り、正確な情報を提供すべき義務を怠ったこと、そして、主税局長が強弁を行ない誤った説明を行って都議会議員の 判断を誤らせたと認定している。特に石原都知事は、有識者等の説明に虚心坦懐に耳を傾けなかったとし、さらに十分な利益を得ながら配当を行い事業税 を負担していないとの間違った説明をしたことについて「被告東京都知事が、このような配当原資についての説明をしないまま、本件条例の制定理由の 第一に配当の事実に言及したのはきわめて不適切であるばかりか、本来、制定の理由とはならない事項にあえて言及している点において、意図的なものが あると見られてもやむを得ないところである。」と厳しく批判されている。
このような指摘をみても、石原都知事と東京都が都立4大学の改革について、意図的に大学の廃止と新大学の設立であると強弁して独立行政 法人法等の立法事実につき十分に説明をせず、大学改革の有識者の意見に耳を傾けず、真摯な都立の大学改革の構想を何の合理的な根拠もなく破棄する ことは、現在の裁判所の理論からみても、違法として評価される可能性がある異常な手続である。
課税自体につき賛成である神野東大教授は条例案に賛成しながら立案の過程について「あえて苦言を申し上げれば、このプランが作成されて くる過程でもって、課税される銀行業の方々の声に十分に耳を傾けてこられてきたでしょうか。そして、何よりも、決定するのは都民ですから、東京都民 に、またその東京都民の代表者である皆様方に、決定のプロセスがオープンにされていたでしょうか。決定さえよければ、つまり、結果さえよければ それでいいというわけにはいかないだろうと思います。必ず決め方のプロセスというのは結果に含まれます。」と述べている。このような神野教授の 指摘を受けるまでもなく、大学改革においてこそ、改革に至る手続きは、結果に直接反映するものとして、極めて重視されなければならないのである。
2 圏央道工事の行政代執行の停止決定
2003年10月3日、首都圏中央連絡自動車道(圏央道)計画をめぐり、土地収用裁決を受けた東京・あきる野インター周辺の住民らの行政代執行の 停止の申立てについて、東京地裁は住民側が起こした裁決取消訴訟の結論が出るまで代執行の停止を命じる決定を下した。進行中の代執行の停止決定は きわめて異例なものである。
この決定は「居住の利益は、自己の居住する場所を自ら決定するという憲法上保障された居住の自由(憲法22条1項)に由来して発生する ものであって、人格権の基盤をなす重要な利益」であり「終の栖として居住しているものの利益は、その立場に置かれた者には共通してきわめて重要」 で「非代替的な性質を有する」とし、「建設される道路に瑕疵があって本件事業認定及び収用裁決が違法である可能性があるにもかかわらず、その 可能性の有無を十分みきわめないままに、あえて建設を強行することを正当化するものとは到底いえない」と判断し、「居住者の利益は、いったん失って しまうとほかのもので置き換えることはできず、手続きを停止する緊急の必要性がある。」とした。
しかも、手続を強行しながら何故にそれほど緊急に道路を建設しなければならないのかについて十分に具体的に主張立証しようとしない東京都側 の態度についても、このような態度では収用裁決それ自体についても違法であると判断される可能性が高いことを示唆している。
このように、道路建設について住民の立場を配慮せず説明もしないまま強行しようとする石原都知事の手法は、厳しく批判されているのである。
第7 国際的基準からも逸脱した石原都知事の手法
東京都は新大学の構想について、さかんに大学の「国際化」ということを強調している。しかし大学の国際化を目指すとすれば、大学教育に 関するグローバルスタンダードである大学の自主性、自律性(高等教育機関の自主性、自律性)が尊重されなければならない。
1997年11月11日にユネスコの第29回総会で採択された「高等教育の教育職員の地位に関する勧告」は、以下のように述べ高等教育機関の自主性、 自律性の原則の保障を明記している。
「17 学問の自由の適正な享受と以下に列挙するような義務と責任の遂行は高等教育機関の自治を要求する。自治とは、公的責任、とりわけ 国家による財政支出への責任の体系に沿った、学術的職務と規範、管理および関連諸活動に関して高等教育機関が行う、効果的意思の決定、および学問の 自由と人権の尊重、これらのために必要とされる自己管理である。」
また1998年10月9日にユネスコ高等教育会議で採択された「21世紀に向けての高等教育宣言ー展望と課題」は以下のように述べ高等教育機関の 自主性、自律性の保障を明らかにしている。
「13条B 高等教育機関は、その機関内の業務を管理する自治を与えられなければならない」
現在石原都知事は、「新しい大学の構想」を進める上で、教職員や学生・大学院生の関与と参加を十二分に保障しないままで、「トップダウン」 で「改革」を押しつけようとしている。このような手法は、高等教育に関するグローバルスタンダードである、大学の自主性、自律性を真っ向から否定 するものであることは明らかである。
第8 終わりに
以上の通り、都立4大学の改革と新大学設置に関する現在の石原都知事の主張と手続は、あらゆる角度からみて看過できない法的問題を含んで いる。違法な手続が速やかにあらためられることを強く求めるものである。
以 上 |