「東京都立大学の廃止と都立新大学構想に抗議する声明」

 本年8月1日、東京都(石原慎太郎知事)が「都立の新しい大学の構想について」(以下「都立新大学」構想)と題する発表を行いました。現在の都立4大学(東京都立大学・科学技術大学・保健科学大学・都立短期大学)を廃止し、2005年度を以て新たな単一の都立新大学の設置を目指すとするこの構想に基づき、今秋に至って新大学設置に向けた措置が急ピッチで進められています。東京都によるこうした一連の動きは、以下の2点において大きな問題をはらんだものです。
 第一に、「都立新大学」構想は大学自治のルールに基づくこれまでの改革協議の成果を無視した、非民主的・強権的なものです。都立各大学の改革をめぐっては、さる2001年11月に東京都が発表した4大学の「統合・移行」を柱とする「東京都大学改革大綱」に沿って、各大学学長・都教育長・大学管理本部長を委員とする「都立新大学設立準備委員会」(委員長・横山洋吉教育長)が設置され、準備・検討が具体的に進められていました。そうしたさなか、突如としてこれらの手続きの白紙化と、上記のような4大学「廃止」の新構想が宣せられたのです。従来の協議機関は一方的に解散され、8月29日には外部有識者を加えた「教学準備委員会」(座長・西澤潤一岩手県立大学学長)などを柱とする新たな準備体制への移行が明らかにされました。以後、「改革」構想はもっぱら都の知事部局である大学管理本部によって一方的に進められており、教員や院生・学生はその内容に対して実質的に関与することを許されない状況にあります。このような都当局の行為は、設置者権限を濫用して、行政が大学に介入し、支配しようとするものでり、学問の自治と大学自治を著しく侵害するものです。
 第二に、「都立新大学」構想には歴史学をはじめとする人文系学問への無理解・軽視の姿勢が、鮮明に表れています。新大学の組織構成案においては、東京都立大学における既存の各学部・専攻のほとんどが、単一の「都市教養学部」に吸収されることになっています。その際、人文系の11学科・専攻は複数のコースに大括りされ、とりわけ文学系5専攻(国文・中文・英文・仏文・独文)が軒並み実質廃止されるほか、史学科なども「国際文化コース」など実態の不明確な枠組みに再配分され、名実ともに大幅な縮小を余儀なくされることが必至とみられます。さらに大学院の構成については依然明確なプランが示されず、設置予定が1年遅れとされている点なども、この構想がいかに拙速かつ学問的根拠に乏しいものであるかを窺わせます。このままでは研究・教育環境の劣化は免れず、学生・院生の学業計画に支障をきたすことも強く懸念されているところです。
 以上のとおり「都立新大学」構想は、手法・内容の両面で著しい問題を抱えており、全国的に展開されている近年の大学改革の流れの中でも、際だって悪質なケースと断ぜざるをえません。構想がこのまま実現し、他大学の改革の動きにも影響を及ぼしていくことがあれば、日本における人文系教養・専門教育の質的低下は免れないでしょう。このことは人文科学の一角を担うわれわれ朝鮮史研究者にとっても、到底座視しえないものです。またその強権的手法に対しても、われわれ朝鮮史研究者は民主的で自由な研究・学習の場の必要性を痛感する立場から、とりわけ深い憂慮を禁じ得ません。
 われわれは東京都の「都立新大学」構想に強く抗議するとともに、学問と大学の自由を尊重する、本来あるべき姿勢に一日も早く立ち戻ることを求めます。

                      2003年11月18日
                      朝鮮史研究会幹事会