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2466号

高専の法人移管にあたっての教員の人事制度等について
―全員任期制などの押しつけは許されない―
2007年11月16日 公立大学法人首都大学東京労働組合 中央執行委員会

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  10月5日に閉会した第3回定例都議会では、都立産業技術高等専門学校を法人化するため、「都立学校設置条例」の一部改正と「公立大学法人首都大学東京の中期目標及び定款の変更」等が、自民、民主、公明、ネットの賛成、共産と一部の無所属議員の反対で可決された。その結果、公立大学法人首都大学東京は、来年4月、東京都から移管されることが決まった産業技術高等専門学校を受け入れるとして、現在、移管準備の諸手続が進められている。
  高専教員は現在のところ、我々の組合には加入しておらず、その多くが東京都高等学校教職員組合に加盟している。したがって我々は現にいる高専教員の労働条件等に関しては、基本的に都高教にその交渉権があると理解している。しかし、法人のもつ雇用・人事制度という点では、大学教職員にも深刻な影響を及ぼす恐れのあるものであり、組合はその点から、これに重大な関心を持ち、発言するものである。

 この間、組合に対して行われた情報提供等によれば、都教育庁と法人は、法人への移管にあたっては、@雇用はすべて5年任期の任期制に切り替え、任期の定めのない雇用契約を続けるという選択肢はないこと、A有期契約の根拠法は労働基準法第14条であること、B法人への移籍を希望しない者については都立高校等への転属を考えること、などを高専教員に示した。さらに、移管にあたっては、教育庁の推薦する教員について、法人が選考を行うということも、いったんは示した。
 しかし、法人と都教育庁の示したこれらの内容は、いくつかの点で、重大な問題を含んでいる。

「労基法14条による任期制」は法の趣旨に反する
  第一に、教員の任期制について、労基法14条をその趣旨を歪めて使おうとしているという点である。同法はもともと、雇用者が労働者をその意に反して長期間拘束することを禁じるための規定としてつくられたものであり、なんら任期付雇用の根拠になりうるものではない。したがって本来的に長期性、継続性を要する大学や高専等の業務を行う職員に適用することはその制定趣旨から大きく外れるものである。
 仮にその点をおくとしても重大なことは、提示された任期制は、この法の例外規定を不当に拡大解釈しようとしていることである。労基法改正時に出された厚労省労働基準局長通達(2003年10月22日)に明示されているが、この法では除外の特例として認められる、労働契約交渉で劣位に立たない「専門的知識等」をもつ者についてのみ5年、それ以外は3年を期間の上限としている。しかし、この特例が博士学位をもつ者、平均年俸1075万円以上の者など具体的な限定がある以上、高専教員全員に適用できるものではない。同通達には「法14条第1項に規定する期間を超える期間を定めた労働契約を締結した場合は、同条違反」と労働契約締結そのものを違反と明記されている。過去の判例等に基づき、仮に3年を超える期間を身分保障期間であると解釈できた場合にも、それが労基法等によって保護・保障されるものではない。したがって同法に基づいて全員に5年の任期を付すという現在提案されている制度は、法的に重大な疑義がある。
 ここであえて申し添えておけば、我々はだからといって3年任期であれば合法的であるからよいというわけでは決してない。そもそも継続的な教育・研究に携わる教員について、3年であれ、5年であれ有期雇用という制度を導入すること自体に強く反対しているのであり、最低在学年限5年間の高専で、教員の任期がそれをも大幅に下回る期間であるなど、言語道断である。教員への同法適用については、実態として様々な任期雇用が存在している大学ですら、教育的職務に就いているものには適用しがたいために、時限的研究、教育的責務の薄い場合に限って大学教員任期法が特例として作られた経過があったことを忘れてはならない。かつて都立の大学の法人化に際して、旧大学管理本部が労基法14条適用の可能性を示したが、組合や大学側から、その問題点が指摘されるなかで、これを断念し、大学教員任期法のみに限定したという経過もある。たとえ大学教員任期法であれ、すべてのポストにそれを適用することは、同法の拡大解釈であり許されないことは、組合は再三にわたって指摘してきた。しかし、今回、高専教員に大学教員任期法が適用できないからといって、再び労基法14条の教員への適用を行おうとすることは、現にある法人の教員任期制度の実質的な拡大であり、許されるものではない。

「法人への移管」は労働条件の変更の理由にはならない
  第二に、現に期間の定めのない雇用である高専教員の全員に、「法人移管」を理由として、明らかな労働条件の変更である任期制を選択の余地なく押しつけている点である。たとえ雇用者が都から法人に替わろうとも、現に高専に働く教員の法人への移籍は、以下にみるように雇用としては継続しており、個々の教員が「いったん都を退職し、個々に法人に採用される」ものではない。したがって雇用者が一方的に労働条件を変更できるものではない。
  まず高専の都から法人への移管の手続の性格である。これは、学校教育法第4条に基づく、産業技術高専の設置者の都から法人への変更という設置者変更手続を文部科学大臣に対して行うものである。産業技術高専は昨年4月に新たに認可を受けて現在、2011年3月までの完成年度に向けて、認可された基本計画の履行中であり、基本計画にない組織・人員等の変更は基本的に許されない状態である。したがって、移管はすなわち設置者の変更が行われるのみであり、都と法人には、その組織・人員を可能な限り変更することなく引き継ぐことが義務づけられている。設置申請にあたっては、教員についてもその担当科目等を記載した名簿が添えられており、教員本人の側の特別の事情等のない限り、そのまま維持することが求められている。そこで、とくに移籍を希望しない場合を除き、雇用は継続していると考えられ、都と法人は本人の希望以外の理由で移籍教員を選考することや、労働条件の重大な変更を可能にするような雇用の断絶は存在しないと考えられる。なお選考に関しては、その手続は変更されると伝えられるので、当面、推移を見守りたい。
  次に、地方独立行政法人法の規定内容である。都立高専の移管は、たとえ新たに法人が設立されるのでなくとも、現にある高専という組織がそのまま法人に移管され、なおかつ、そのまま高専教員の職務を行う以上、少なくとも職員の身分移行は同法上の移行型法人にあたると考えられる。したがって法第59条2に示されるように、職員は「別に辞令を発せられない限り、当該移行型一般地方独立行政法人の成立の日において、当該移行型一般地方独立行政法人の職員となる」のであり、むしろ個々の職員の意思にかかわらず地方公務員から法人職員に所属変更されてしまうのである。その点からも雇用と労働条件の継続は自明のことなのである。

労働条件決定は対等交渉を経た「同意」でなくてはならない
  第三に、現在期間の定めのない雇用にある労働者に有期雇用への切り替えを事実上強要している点である。前述の労働基準局長通達は、「使用者が労働者との間に期限の定めのない労働契約を締結している場合において、当該労働者との間の合意なく当該契約を有期労働契約に変更することはできないものであること」と明記している。法人(および教育庁)は任期制を含む労働条件を提示して、個々の教員の「同意書」を得れば違法ではない、と強弁するつもりでいるのだろうか。しかし、教員免許等の事情から都立高校等への転属ができない、あるいは望まない教員にとって、不同意は離職を意味する。現行と同じ条件での労働契約の道を閉ざしておいて「同意」を迫るのは強要に他ならない。
  労基法第2条は「労働条件は、労働者と使用者が、対等の立場において決定すべきものである」と労働契約の大原則を述べている。今回の移管に伴う高専教職員の労働条件の決定過程では、法人側が前もって決めておいたものを一方的に押しつけるのではなく、労使の対等かつ十分な交渉と協議を尽くしたうえで、双方納得がゆく労働契約の締結に至るよう、受け入れる法人の自省を促したい。

 高等専門学校は、その目的や受け入れる学生の年齢などの点で、少なからぬ違いがあるとはいえ、そこに働く教員は高等教育教員として、大学教員と共通する性格を多くもっている。学生への系統的な教育の継続性安定性を維持することが責務である大学・高専の性格からして、全員任期制あるいは任期制を基本とするという教員人事制度は、とうてい容認できるものではない。また、現在行われている、それへの切り替え手続きは同じ法人の労働組合として看過できない。
  我々は、法人がこのような雇用制度の導入を早急に再考することを、強く求めるものである。