2307号
 

誰も納得できないような「昇任審査」が行われようとしている

任期・年俸制、教授会権限剥奪の予行的人事を行ってはならない

                           2004年10月25日 東京都立大学・短期大学教職員組合中央執行委員会                                    

 週末である10月22日に、「平成17年4月1日付け昇任の審査の実施について」と標記された各大学学長宛の大学管理本部長名の 通知が公表されました。
  東京都大学管理本部の愚行には慣れっこになってしまった感がありますが、それにしても、今回の「昇任審査」については、 その非常識さ加減、権限を盾に取った横暴さに対しては厳しく抗議しておかなければなりません。
 大きな問題が3つあります。 @審査基準の問題、A審査の時期、期間を含めた審査方法の問題、B承認後の処遇の問題、です。

教員は営業マンなのか

 昇任する審査基準としてあげられている項目を見て、応募を諦めてしまう人がほとんどでしょう。「@権威ある賞の受賞、 A顕著な外部資金獲得」というのだから恐れ入ります。日本中、いや世界中の大学で、助手が助教授に昇任する際の基準としてこのよう な項目を掲げる大学があるでしょうか。「権威ある」というのがどんな程度を意味するのか不明ですが、@は嫌みな要求である程度で許 せるでしょう。しかし、Aに至っては、管理本部が法人化された大学で教員をどのように扱おうとしているのか露骨に示していてとうて い黙認できる基準ではありません。科研費にせよその他の外部資金にせよ、助手が単独で獲得できる研究費は枠そのものからして小さい のは周知の実態です(日本の研究費政策のお粗末さです)。そのことが助手の承認昇任、昇格の希望のひとつの要因なのです。教授や助 教授とのグループのメンバーであればよい、としても、こんな基準を設けること自体が、「有力な」教授のグループに属さなければ昇任 すらできない、という研究風土を煽ることになるのに気がつかないのでしょうか。いや、そもそも管理本部は「首都大学東京」という大 学をそういう大学として目指している、としか考えられません。
  任期制や裁量労働制を言うときには管理本部自身が、助手(「研究員」)は「主として研究を行っている」と定義するにもかかわ のありさまです。「主としてお金を取れる研究を行っている」者でなければならないようです。しかも、「教育研究業績一覧」 (様式2)では、記載の順は「教育上の能力に関する事項」「職務上の実績に関する事項」そしてその後に、研究業績一覧となってい るのです。様式3に至ってはまるまる取得外部資金額の記載です。これでは、若手の教員研究者は絶望してしまうでしょう。
  大学教員審査での、こんな「社会的に」恥ずかしい基準は撤回するべきだし、応募者は無視すべきです。

誰が、どうやって審査するのか、またもや不明

 審査方法については、これまでの「新規公募」の際に再三再四にわたって行ってきた批判と抗議をまたもやしなければなりませ ん。
  相も変わらず、「教学準備会議の下に置く教員選考委員会分野別昇任審査分科会」なる正体不明の組織で「書類審査」を行う ようです。この「分科会」は、噂によれば専門も何も関係なく、人数も不定の、たった数人の管理本部指名の教員と管理本部の 事務担当者が決定権をもった組織で「書類審査」を行うようです(「申請書」によれば、審査を希望する「専門分野」欄には、文系と 理系の区別しかないのです!)、人数も不定の、たった数人の管理本部指名の教員と管理本部の事務担当者が決定権をもった組織のようです。このような「噂」が囁かれること自体、異常な審査であることを示しているのです。
  およそ、外部からの公募はもとより、例え内部昇格であったとしても、いかなる大学でも教員人事は、専門性を考慮した選考委 員が教授会で選出され、応募者の履歴、業績を精査し、面接も含めて候補者を絞り、選考過程を教授会に報告して投票などで昇 任されるのが常識です。ところが、今回の応募書類によれば、なんと、論文、著書等の提出が要求されていないのです。200字の説 明だけの一覧表で教育と研究の担当者を決めてしまう大学があったとしたら、物笑いの種になるだけでは済まず、学生や納税者に 対する責任放棄と言わざるをえません。
  さらにそれこそ、きちんと社会的に認知され、有資格を認められ、そして、昇任すれば応募者もその一員となる教授会組織が現 にあるにもかかわらず、それを無視し、メンバーも経過も秘匿した審査をする必要があるのでしょうか。そこに、現大学のみな らず、新大学においても教授会から人事権を剥奪する意図が露骨に現われています。
  「新大学人事だから」という理屈は通りません。もともと、新大学は「教員審査省略」で設置申請されて、認可されたのです。 それは、「現行教員組織がその教育研究の資格と責任をもつから」であることは言うをまたないことです。一方で社会や文科省に それを主張し、他方で現行教員組織を「権限なし」とするのは明らかな論理矛盾です。したがって、このような昇任審査手続きを 私たちは厳しく糾弾しなければなりません。最低限、「昇任審査分科会」の構成メンバーを直ちに公表し、審査経過を教員組織に 正確に公開することを強く要求します。
  教職員組合は個々の人事に介入する意図はありませんが、このような教授会権限を侵犯し、なおかつ杜撰で常識をわきまえない選考方法がとられるなら、大学界のみならず、社会から新大学の教育研究の水準を疑われてしまうことになるでしょう。このことに対して各大学の教員組織が抗議の意思表示をするべきであると考えます。また、管理本部と学長予定者に対して、最低限、「昇任審査分科会」の構成メンバーを直ちに公表し、審査方法の改善と審査経過を教員組織に正確に公開し、承認を求めることを強く要求します。
  審査の恣意性、覆面性に加えて、今回の昇任審査には、時期の異常さ、期間の異様な短さを指摘しなければなりません。
  新大学でのカリキュラムづくりが大詰めを迎え、時間割を必死になってい確定しようとしている現在、助手も含めてすべての教員の担当が決まってきています。講義担当者が増えてくること自体は喜ぶべきことですが、担当科目配分、時間割づくりはまた新たな 混乱が生じる懸念があります。しかも、応募書類の「記載要領」によれば「担当授業科目等に関する教育上の能力に関する事項」を書かなければならないとされています。いったい、助手は何を書けばよいのでしょう。
  さらに、問題なのは、この「平成17年4月1日付け昇任の審査の実施について」という通知は、10月21日付の各大学学長宛の通知であるにもかかわらず、日程が下記のようになっていることです。

  • 募集期間   …… 平成16年10月22日(金)〜平成16年11月5日(金)
  • 分科会    …… 平成16年11月8日(月)〜平成16年11月12日(金)
  • 候補者の決定 …… 平成16年11月15日(月)

 とくに言語道断なのは(2)の実質審査期間が1週間で、おそらくただ一度の「分科会」会合で、面接も何もなく決定されてしまうことです。この日程を見て、懸念されるのは、「結果は、実はもう決まっているのではないか」ということです。様式(2)〜(3)(あるいは (2)〜(4))は膨大な書類となります。それを短期間に苦労して書いても、徒労に終わることになるのではないかと心配されます。

昇任と「任期制・年俸制」を連動させてはならない

 上述のような種々の混乱や異常さを無視して行おうとしている今回の「昇任審査」のもっとも大きな危険性は、その「処遇」事項にあります。助手→「准教授」の場合は以下の通りです。

処遇
「新制度」の任期制・年俸制を適用

* 昇任者の17年度年俸は、従来の取扱いにおいて本人が助教授に昇任した場合に適用される号給等を基礎に基本給算定基礎額を算定し、これに対応した基本給、及び当該基本給の額の5分の3相当額の職務給、5分の2相当額の業績給を支給します。

 私たち教職員組合は、これまで一貫して、現職の教員に「任期制・年俸制」を押しつけることに反対し、正式に要求書を提出して、現在、団体交渉を行っています。その中の重要な論点として、「昇任と任期制・年俸制を結びつけてはならない」という項目があります。百歩譲って一部に「任期制・年俸制」を敷くことになったとしても、あくまでも本人の自由意志による選択、同意を前提 とすべきで、「審査される」という弱い立場を利用して意志に反して「同意」を取り付けることなど断じて許されない暴挙です。
  現在交渉中の重大な勤務・労働条件に関して、もし当局が「組合との合意、了解など必要がない」という見解を取るならば、今後の労使関係の全局面に重大な事態が起こることを覚悟すべきです。
 また、応募される教員は、労働者側とのなんらの了解もない募集要項のこの部分は無視しましょう。たとえ昇任という判定結果に なっても、それは教員としての資格認定であり、賃金、勤務条件に関しては、「賃金は、現行を下回ることはない」という事項以外は、労使で合意していないのです。それらは労基法に定めるすべての事項が出そろってから一人ひとりが個別に結ぶ「法人との労働契約」によってはじめて有効になるのですから、いまだ存在していない法人との労働契約に「後で化ける」ような、怪しげな「同意」を与える必要はありません。この点では、「処遇」の記載より、「備考」欄の、
            「公立大学法人の職員となる方には、今後公立大学法人と雇用契約を締結していただくこととなります。
            上記の勤務条件は、現段階での都の方針であり、各人との雇用契約は、公立大学法人が定める規定に
            基づいて、締結されます。」
の方が正当(「都の方針」は「都の希望」と書くべきですが)であり、しかも「公立大学法人が定める規定」はまだ存在していないことを忘れないでください。

 教職員組合は、助手の昇任そのものに、異を唱えるものではありません。むしろ、学生の教育保障の立場から、この間、退職した 教員の後任を早急に補充すべきであることを主張してきました。しかし、今回の「昇任審査」に対しては、新大学、新法人での不当な 教員管理の予行的事例として数々の疑念、懸念を持っています。また、このような人事が行われようとすることで、若手の就任予定者が新大学から去り、また就任しなくなってしまうことを恐れます。人事はあくまで大学、学部の必要な部署に、誰もが公正だと思える方法で行われなくてはなりません。私たちは上述の3点に関して強く抗議するとともに、「審査」の全過程に厳重な監視を行い、いかなる権利侵害に対しても直ちに必要な反撃を行うことを表明します。