2300号
 

 この「手から手へ」は全教職員へ配布しています。

                 「裁量労働制」の提案に対して全教職員の討議を

                                東京都立大学・短期大学教職員組合中央執行委員会

 9月14日の団体交渉において、当局側より組合に対して、法人化後の教員の労働時間制度に関して、労基法38条の3に基づく「裁量労働制(専門業務型裁量労働制)」を導入したいこと、および同制度の適用者の範囲について別紙のような提案がありました。組合側からは、労働時間制度の検討は十分慎重に行うべきこと、大学教員の勤務(労働)は一般企業とは異なる内容を含んでいるので、その特殊性を正確に勘案して労使が誠意を持って交渉するべきであること、「裁量労働制」は教員の勤務の実態に近いことは認めるが、安易な形での導入は不払いの長時間労働や過労災害の原因になる恐れがあること、を述べました。その結果、同制度の導入の可否および導入した場合に結ぶべき労使協定の詳細を検討する小委員会を労使で作ることに合意しました。

 今後組合は、この小委員会を通して労働基準法下での教員の教育研究活動をより充実させ、働きやすい職場にしてゆくための提案、要求提出を行います。ぜひ組合内外の教員の要望、疑問、提案を組合までお寄せください。また、手続き的には、最終的に就業規則、各種労使協定となって実体化されたものを法人代表者と各事業場の過半数代表者で承認することになりますから、各職場で活発な討議を行い、その議論を代表者選出に結びつけていくようにお願いいたします。

T 裁量労働制(専門業務型裁量労働制)とは

労働基準法 第三十八条の三に基づいており、条文は以下の通りです。

 「使用者が、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定により、業務の性質上その遂行の方法を大幅に当該業務に従事する労働者の裁量にゆだねる必要があるため当該業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し具体的な指示をすることが困難なものとして厚生労働省令で定める業務のうちから労働者に就かせることとする業務を定めるとともに、当該業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し当該業務に従事する労働者に対し具体的な指示をしないこととする旨及びその労働時間の算定については当該協定で定めるところによることとする旨を定めた場合において、労働者を当該業務に就かせたときは、当該労働者は、厚生労働省令で定めるところにより、その協定で定める時間労働したものとみなす。」

 労基法上の原則は、使用者は労働契約や就業規則において、法定労働時間の上限枠、1日8時間、1週40時間の中で、始終業時刻を特定して所定労働時間を管理することが義務とされていますが、上記第三十八条の三はこの原則の例外規定として1987年に定められ、昨年10月に国大協の要請に応じた形で、「厚生労働省令で定める業務のうち」に「学校教育法に規定する大学における教授研究の業務(主として研究に従事するものに限る)」が追加されました。

 労働基準法 第三十八条の三は分かりにくい文ですが、私たちがこの労働時間制度下で働く場合に、十分考えておくべき点は以下の4点でしょう。

  • 大学教員の「業務」が、「業務の性質上その遂行の方法を大幅に当該業務に従事する労働者の裁量にゆだねる必要があるため当該業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し具体的な指示をすることが困難なもの」であるのかどうか。
     研究を考えると妥当であるように思えますが、教育、とくに授業や会議その他の校務を考えると必ずしも当てはまりません。厚労省が昨年まで大学教員を裁量労働制の対象業務から外していたのはこのせいです。この点では、大学教員の労働が、一般企業を想定して作られた裁量労働制の枠外にある認識をもって、私たち自身でみずからの労働の内容と遂行手段のあるべき姿を工夫すること、それを使用者とも合意する努力が必要ではないでしょうか。
  • 実際に「当該業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し当該業務に従事する労働者に対し具体的な指示をしないこととする旨及びその労働時間の算定については当該協定で定めるところによる」の部分の解釈で(悪意あるものも含めて)様々な誤解があることです。
    「授業がなければ届けなくても出校しなくてよい」「非常勤その他の学外活動はまったく自由だ」「平日の昼間来なくても、深夜や休日に仕事をすればよい」「大学に所在場所を知らせる必要はない」等々は、教員側の勝手な解釈です。また、「超過勤務手当は一切払う必要はない」「教員の勤務実態を把握する必要はない」「深夜、休日の労働は、とくに指示していなければ教員が勝手にしているのだから、事故や災害があっても教員の自己責任だ」「客観的に8時間を超えた勤務をしていても(例えば、1時限目の授業と6、7時限目の授業を担当していても)構わない」等々は使用者側の勝手な解釈です。
    今春発足した国立大学法人の7割近くで「裁量労働制」が導入されており(全大教調べ)、いまや法人化された大学の労働時間制度の主流になりつつありますが、実態は上記のような誤解、恣意的な解釈で次々に問題点が浮上しているのが現状です。実際には裁量労働制は法的には、それほど使いやすい制度ではないにもかかわらず、問題を曖昧にすることで、近い将来人件費が逼迫してきた段階で労働者側が大きな損害を被る可能性を残したまま進行しているのです。
  • 「当該労働者は、厚生労働省令で定めるところにより、その協定で定める時間労働したものとみなす」というのが、「みなし労働時間」で、通常1日8時間と協定しています。つまり、午前5時以降、午後10時までの間は、「包括的な勤務時間」とされ、この間であれば何時間働こうとも、8時間分の賃金しか支給されません。
     その意味で、教員から見れば、「自由な業務遂行の裁量」と引き替えに、超過勤務手当の請求権を放棄する制度といえます。一般企業ではこの点が、過重なノルマ主義とセットになって低賃金と長時間労働による過労災害の要因となっているのです。教員の場合、これまでも超勤手当などなかったのだから、何の影響もない、と考えがちですが、成り行きに任せてしまえば、教育公務員としての規制の少ない大幅な自己裁量権と研修権が奪われて、例えば届けのない学外勤務での事故は自己責任、使用者からの指示のない深夜実験での学生事故は指導教員の責任、など裸の自己責任の世界に入ってしまうことになります。
     また、多くの国立大学法人では、他大学への非常勤講師は「勤務時間内の労働」か否かについて労使の合意はできていません。また、法規上は、「午前中本務校で授業、午後は学外で非常勤あるいは学会活動で併せて8時間」などという勤務形態は認められていません。これらは、きちんと労使の合意ないし協定で明確にしておかなければ、「勤務態度不良」や「給料の二重取り」の判定を下されかねないのです。
  • 裁量労働制を導入した国立大学法人では、すべて「みなし労働」を8時間としています。しかし、文部科学省による調査(「大学等におけるフルタイム換算データに関する調査報告」H15.11)では、大学教員の平均的な1日あたりの労働時間は国立大学で9.8 時間、公立大学で9.9時間、私立大学で9.1時間でした。また、学問分野別では、学生に実習指導が多い保健学系では、10.5時間にも及んでいるのです。
     さらに、前記の2003年10月22日付けの厚労省通達では、「主として研究に従事する」とは、「具体的には講義等の授業時間が、多くとも、1週の所定労働時間又は法定労働時間のうち短いものについて、そのおおむね5割に満たない程度であることをいう」とされているのですが、同調査に依れば、1日のうち「研究」に使われている時間は国立で3.5時間、公立で3.1時間となっており、とても5割には遠く及びません。
     したがって、「みなし8時間」では約2時間が無償労働であり、また、裁量労働本来の研究業務は規定には届いていないのです。この点をいかに考えるかという問題があります。

U 教職員組合中執の基本的な立場

 「専門業務型裁量労働制」は前記のように、現在の大学教員の勤務形態に「近い」内容を持っていることは認めますが、先行している国立大学法人での運用実態を調査すればするほどその問題点、未解決な部分が目に付きます。したがって、法人制度下での大学教員の労働時間制度に関して慎重な判断をしなくてはなりません。

  • 法人下での教員の労働の内容と遂行の形態について徹底的な討論と全学的な共通認識が必要と考えます。中執の考えでは、原資を税金に依っている賃金の対価としての公立大学教員の労働は、以下の四つからなっているという立場です。
  • 教育(講義、実験・実習、ゼミ、講義等に付随する準備、試験、レポート採点、オフィスアワー等)
  • 研究(自らの課題による研究、調査、フィールドワーク、学外他機関・研究者との共同研究、研究出張、学会参加等)
  • 校務(教授会、学科(教室)会議、委員会、入試業務、論文審査等)
  • 社会貢献(学会委員会、公開講座、出張講義・講演、審議会、非常勤講師等)

 これらの対価としてとして賃金があり、これらを誠実に、創造的に行うことが教員の義務ではないでしょうか。ただし、この定義だけで話がすむわけではなく、労働時間制度、勤務管理制度は、これらを十全に、創造的に、自由に、もっとも効率的に行えるものであるべきです。そのために、職員も含めた教員間で議論し、また使用者側にも同じ認識を持たせる努力が不可欠です。

  • 上記を前提とすると、法で規定されていない、あるいはきわめて煩雑かつ不合理な手続きを要する事項について、労使で詰めるべき内容が出てきます。
  • 上記(1)、(3)、(4)は、果たして「裁量」の範囲なのか。
  • (2)、(4)は事業場外(自宅も含む)で行われる可能性が高い。専門分野の違いも際だっている。これらの扱いと手続きをどうするのか。職位や専門にかかわらず全教員一律の規定で事足りるとは思えない。
  • とくに(2)の研究については、教育公務員特例法の「研修」の考え方を準用し、「事業場外見なし労働」の効率的な運用を工夫しなければ、自由で活発な活動を強く阻害することになりかねない。
  • (1)、(2)は院生の指導を考えると、区分不能な部分が多い。とくに、深夜、休日労働に関して、法人全体でカバーし、保障する制度としなければ、事実上、教育研究が停滞するか、時間外手当で人件費が直ちにパンクしてしまう。同時に、この点をルーズにすると、職位(助手や技術職員、事務職員)によっては、事実上、裁量を超えた指示のもとにサービス残業を強要されることにもなりかねない。
  • (4)の中の、非常勤講師(広く言えば兼業)の扱いをどうするのか。みなし時間内とする(二重給与を認める)のか、あるいは、みなし時間外とするのか、その場合の手続きはどうなるのか。
  • 以上で検討すべき問題が挙げ尽くされているとは考えていません。このほかにも、学生の事故や災害に対する保障、責任の問題は詳細な検討が必要です。
     また、強調しておきたいのは、組合の基本的な立場は、教員であれ、職員であれ、肉体的、精神的な健康維持のために「労働時間短縮とサービス残業の一掃」です。裁量労働制を取ったために、無用に煩雑な事務手続きが増えれば、とくに職員に大きな負担、しわ寄せがかかってくることは目に見えています。先行した国立大学法人で労働基準監督署の立ち入り検査が頻発しているのは、ルーズな形で教員の裁量労働が行われ、増大化する一方の校務をサポートするために職員が異常な長時間勤務を強いられ、不払い残業が常態化していることにも大きな原因があるのです。したがって、問題点を曖昧にしたままでの教員の裁量労働制には強く反対します。

V 具体的な「労働時間管理」に関する検討事項

 前にも書きましたが、裁量労働制であっても使用者の「労働時間把握義務」がなくなるわけではありません。厚生労働省労働基準局監修『改正労働基準法実践マニュアル』(全国労働基準関係団体連合会発行)によれば、

 「裁量労働制の場合は、他の勤務形態と異なり、具体的な業務の時間配分などを労働者の裁量に委ねている部分が大きく、通常の労働者と同様に日々の始業・終業時刻を確認することは難しい面がありますが、かといってまったく労働者の労働時間を把握しなくてもよいものでもありません。例えば、裁量労働制による場合でも、タイムカ−ドやIDカ−ドなどのできるだけ客観的な記録によって出退勤時刻を打刻させるとか、週1回、月1回など定期的に業務報告をさせたり、各自業務日報を付けるよう指導するとか、定期的に事業場において実態調査をする、などの対応が望ましいでしょう」

とされており、労基署に対する裁量労働制の届けには、労働時間把握の具体的方法を記載しなければなりません。

 国立大学法人では、「定期的な自己申告」が多く採用されているようですが、実際には有名無実化されており、ある大学では、組合が勤務記録を提出しようとしたら当局が受け取りを拒否した、という事例さえあります。教員の超勤手当や時間外手当が運営費交付金の中に準備されていないから、深夜あるいは長時間労働が続いている記録を出されたら困る、ということです。当局側がこのような姿勢であるときには、よほど注意深い協定や合意を結んでおかないと、肉体的、精神的ダメージをすべて「個人責任」に帰されてしまう可能性があるのです。

 また、一方で厳格、厳密な時間管理を行えば、自由な研究活動が著しい制限を受けることになりかねません。文字通り、角を矯めて牛を殺すことになってしまいます。

 したがって、「労働時間管理」の方法と運用については、具体的で創意的な方法を労使の信頼関係のもとに「工夫」することが必要でしょう。

 以下に、検討すべき項目を列記します。

    • 出退勤時刻把握の方法
      タイムカードやIDカードの出し入れは実際的ではないでしょう。自己申告やそれに基づく「上司」の聞き取り、などになる可能性が強いのですが、「虚偽の申告」や、「棚晒し」にさせず、正当な手当、肉体的、精神的ケアを伴うものにしなくてはなりません。
    • 深夜・休日出勤の扱い
      文字通り教員の自主的判断によるものと、明らかに自由意思ではない義務としての出勤を区別することが重要です。国立大学法人では、ネットワーク管理者、生物飼育管理などの担当者が、記録に残らない無償労働をしている例が多々あります。同時に、より重要なのが、深夜・休日における学生、院生の研究指導の扱いです。例え、教員は自主的判断で「自己責任」であっても、学生たちが事故や災害時に無補償状態にならない扱いが不可欠です。多くの国立大学ではこの点がはっきりしておらず、使用者は「深夜・休日勤務」の許可を出さず、手当なしの教員たちが学生のための傷害保険に自費で加入している例もあります。
    • 全日あるいは一部の時間の学外での非常勤講師等の兼業
      前述のように、裁量労働制自体には、基本的には一日の労働時間を分割して、学内、学外で働くというのは認められていませんが、労基法第38条の2に「事業場外みなし労働」の規定があります。
      「第38条の2  労働者が労働時間の全部又は一部について事業場外で業務に従事した場合において、労働時間を算定し難いときは、所定労働時間労働したものとみなす。ただし、当該業務を遂行するためには通常所定労働時間を超えて労働することが必要となる場合においては、当該業務に関しては、命令で定めるところにより、当該業務の遂行に通常必要とされる時間労働したものとみなす。
       2 前項ただし書の場合において、当該業務に関し、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定があるときは、その協定で定める時間を同項ただし書の当該業務の遂行に通常必要とされる時間とする。
       3 使用者は、命令で定めるところにより、前項の協定を行政官庁に届け出なければならない。」
        ひとつの方法は、この規定を利用することで、適切な労使協定を結んでおくことですが、重要な前提として、非常勤講師等の兼業を「みなし労働」と扱うかどうかです。組合は、届けさえきちんとなされていれば、他校での非常勤講師は大学教員の社会貢献の一環であり、当然正当な労働であると考えますが、使用者側はどうでしょうか。国立大学では、まとまった見解は出ていません。
    • 自宅を含む学外での研修
        これは、上記の兼業以上に本質的な問題を含んでいます。とくに文系の教員にとっては非常に重要な問題であり、また、理系の教員にとってもフィールドワークや学外研究の機会が多い者にとっては、学外での研究が正当な労働と認められ、簡素な手続きで行えなければ、何のための裁量労働か、ということになってしまいます。前項と同様、「事業場外みなし労働」の協定を結ぶことになりますが、その際に、例えば引率する学生に対する責任や事故への保障を十分検討しておかなければなりません。
        さらに、大学における教育、校務を誠実に行う風潮が確立されていないと、対学生で不信感を生じたり、あるいは研究スタイルの異なる教員間での反目の原因ともなりかねません。この点は単なる労働制度の問題としてではなく、全教員での活発な議論と共通認識の形成が鍵になると思います。
    • 時間外の校務(会議等)
        例えば、1時限目の授業を担当している教員が午後6時からの義務としての会議に参加すれば自動的に8時間労働を越えてしまいます。人件費が豊富にあれば、当然、時間外手当を要求すべきところですが、それが可能でしょうか。「授業」「校務である会議」等は専門業務型裁量労働制の想定していない拘束です。したがって、厚労省令の「定める業務」にも「大学における教授研究の業務(主として研究に従事するものに限る)」とただし書きが入っているのです。このように、自分の裁量外で長時間拘束される場合の処理も考えておかなくてはなりません。とくに、私たちの場合は、法人化後も都立大B類、短大夜間の授業がしばらくは続きます。法の趣旨を無視した不払いの長時間労働を組合は容認できません。
        もう一つ、教員の裁量労働制に付随して委員会、会議などの校務が夕方遅くになる場合が頻発することが予想されますが、それがサポートする事務職員のサービス残業にならないような工夫をすることが必要です。組合としては、基本的な校務の時間帯は職員の正規の勤務時間内に設定し、それを越える場合は教員職員を問わず時間外手当の対象とすべきだと考えます。この点では、「大学での労働」に関して広範な共通認識を確立する必要があるのではないでしょうか。
    • 時間外手当を支払うべき校務(入試業務、学位論文審査等)
        多くの国立大学では、この2つの業務は義務的校務として時間外(休日)手当の対象とされていますが、実態は「振り替え休日」で処理しようとする当局が多いのです。しかし、現実には振り替えできる日がなくて無償労働になってしまう例もあると聞きます。この2つ以外にも、正当な要求として時間外手当を請求すべき校務の洗い出しを行う必要があるでしょう。
        なお、現保健科学大では学外での実習の指導、監督が非常に多いという実態を見なければなりません。これを正当にカウントし適正な手当を行うことも必要でしょう。

W 健康管理義務、苦情処理制度

 裁量労働制であっても、使用者が労働者の生命、身体および健康を危険から保護すべき義務(いわゆる安全配慮義務)を免れるものではありません。厚労省労働基準局リーフレットによれば使用者のなすべき健康・福祉確保措置として以下が示されています。

「健康・福祉確保措置としては、次のものが考えられます。

    • 把握した対象労働者の勤務状況及びその健康状態に応じて、代償休日又は特別な休暇を付与すること。
    • 把握した対象労働者の勤務状況及びその健康状態に応じて、健康診断を実施すること
    • 働き過ぎの防止の観点から、年次有給休暇についてまとまった日数連続して取得することを含めてその取得を促進すること
    • 心とからだの健康問題についての相談窓口を設置すること
    • 把握した対象労働者の勤務状況及びその健康状態に配慮し、必要な場合には適切な部署に配置転換をすること
    • 働き過ぎによる健康障害防止の観点から、必要に応じて、産業医等による助言、指導を受け、又は対象労働者に産業医等による保健指導を受けさせること

※また、使用者は、把握した対象労働者の勤務状況及びその健康状態に応じて、対象労働者への専門業務型裁量労働制の適用について必要な見直しを行うことを協定に含めることが望ましいことに留意することが必要です。」

 また、「対象となる労働者からの苦情の処理のため実施する措置の具体的内容」も労基署に届けなければならず、その際に、

 「苦情処理措置についてはその内容を具体的に明らかにすることが必要であり、例えば、苦情の申し出の窓口及び担当者、取り扱う苦情の範囲、処理の手順・方法等を明らかにすることが望ましいことに留意することが必要です。この際、使用者や人事担当者以外の者を申出の窓口とすること等の工夫により、対象労働者が苦情を申し出やすい仕組みとすることや、取り扱う苦情の範囲については対象労働者に適用される評価制度、賃金制度及びこれらに付随する事項に関する苦情も含むことが望ましいことに留意して下さい。」

と注意しています。

 多くの国立大学では、労使協定でこれらについて一応の相談窓口を記載してはいますが、例えば、単に人事課とするなどおざなりでしかも苦情や相談がしやすい工夫はされていません。それ以前に、健康維持に関しても従来と同様の年一回の定期健康診断で済ますのが普通で、厚労省が注意しているような裁量労働に伴う危険性を考慮したものとはなっていないのが現実です。

 組合は、専門業務型裁量労働制に先行している企画業務型裁量労働制に関して厚労省が発している指針(平成11年労告149号、平成15年厚労告353号)のように、「使用者や人事担当者以外の者を申出の窓口とする等の工夫」がなされなければならず、そのためには労使委員会の設置など、組合が積極的に関わってゆく、常設の機関が必要があると考えています。

X 助手への適用に関する検討事項

 今回の当局の「適用範囲」に関する提案は、多くの国立大学法人が単純に助手までを含めた提案だったのに比べて、労基法の規定に沿ったものであることは評価しますが、それでもなお、とくに申し出がない限り助手をも裁量労働制の下におくことに関しては私たちは危惧を抱いています。

@実際上、助手の仕事に講師以上の職位の教員と同じような「裁量権」があるのか、という問題を考えなければなりません。自分の意志でなく事実上の指示を受けて、例えば学生の指導や援助のために時間外勤務をしても無償労働になってしまうことがあり得るのではないでしょうか。

A助手に裁量労働制を適用するためには、その助手が「もっぱら研究の業務に従事」していることが条件になります(2003.10.22基発1022004号)。おそらく実際にはあり得ないこの規定を認めることが、危険な副産物をもたらす可能性があります。「大学教員任期法」の三要件のひとつと重なってしまうからです。裁量労働制が魅力的だと、これを容認したとたん、任期制の対象者とされてしまう可能性は否定できません。

 当然、私たちは労働時間制度と任期制とを連動させることには反対です。上記のような危惧も含めて、助手間での討論を期待するものです。

Y 教員の評価制度との関連

 国立大学法人の運営費交付金の成り行きや都当局の財政方針から考えて、新法人の運営費交付金、とくに人件費に関して、私たちは楽観視できない状況にあります。発足時点でこそ大学管理本部は「現教員の賃金が下がることはない」といっていますが、近い将来、その抑制、減額を図ってくることが十分考えられます。

 そのときに、これまで当局が公言してきたように、「教員を競争原理で管理する」意識が前面に現れ、本来別個であるべき「業績評価」と労働時間制度を連動させ、全体の賃金水準を下げた上で、傾斜的な賃金体系をとらせないように注意しておく必要があります。

 この点では労働時間制度と区別させ、教員の「業績評価」を、たんなる論文数や特許取得数などの「結果」だけで計るのではなく、学問分野の特性や職種、日常の勤務状況などを正当に考慮したものにさせなければならないでしょう。裁量労働制が一部企業のように、低賃金で過酷な競争を強いる制度とならないように、とくに「任期制」の再任評価との関連で、評価基準作成過程への教員参加、評価手続きの公開が必要不可欠です。

Z 職員の勤務制度との整合性

 私たちは裁量労働制の導入如何に関わらず、法人化をきっかけとして大学の教職員としての労働の内容、あるべき勤務形態に関する根本的な検討を組合の内外で起こすべきであると考えています。学生への教育という一般企業にはない基幹的な職務を中心として、活発で創造的な研究活動が行われる、大学らしい基本的な勤務スタイルを確立することが重要ではないでしょうか。

 教員がどのような労働時間制をとるにしても、裁量労働制でない事務系職員の勤務スタイルを無視することなく、同じ労働者としてサービス残業や過密労働をなくすための努力、工夫を教職員一体となって行う必要があります。「お役所」的な不合理かつ煩雑な事務処理の見直し、勤務時間内に終わるような会議の設定、自由で創意的な教育研究活動を促進するための施設的な環境整備、教職員間の意思疎通と相互理解をなしとげるために、ルーズな裁量労働制の導入であってはなりません。

 法人化された職場を、互いが互いの労働を理解し助け合う職場にするために裁量労働制に限らず、大いに議論しようではありませんか。