2414号
  

 大学の実態をふまえない作文
「17年度決算の概要と『大学改革を加速する新たな取組』」について

 はじめに
 法人当局は6月30日、平成17年度決算の概要とあわせて「大学改革を加速する新たな取組 −改革加速アクション・プログラム−」(以下、「アクション・プログラム」とする)を発表した。17年度の「実績」と今後の課題が教育研究の理念等に踏み込んだかたちで提示されている。
そもそも教育研究の理念等に踏み込んだ提言がなされている公式の文書が、教授会など教学組織でいっさい議論されないまま発表されるというのは、極めて問題が多い。2003年8月1日以来の東京都の体質そのものである。教育研究審議会や教授会は、これに対して抗議の声をあげるべきであろう。
またその内容は、およそこの大学の実態を見ている教職員からすれば、実態とかけはなられたものであることが明らかだ。

 これが法人のいう「初年度の実績」だ!
 報道発表のための「17年度決算の概要と『大学改革を加速する新たな取組』」の、「初年度の実績」の部分では、「基礎ゼミ」・「現場体験型インターンシップ」開始、青年海外協力隊への参加を大学の単位に、学生サポートの実現、青少年健全育成対策・花粉症対策など都政の重要課題解決に貢献をあげている。また「インダストリアルアートコース」開設、「教員の新たな人事制度」整備、「産業技術大学院大学」開学があげられている。また驚くべきことに「理事長・学長のリーダーシップを確立」したことをあげている。
 これら個別の問題について言及するつもりはない。教員の人事制度なども批判を展開したいが、これについては今後も批判するつもりなので、ここで青年海外協力隊にまるわる問題(単位バンク)、理事長・学長のリーダーシップ云々についてコメントしておく。

 石原知事の片言隻句を実現することが至上命令?
 青年海外協力隊への参加を単位として認めるという制度は、石原知事が2003年8月1日の記者会見で言及したものである。そのことの当否はおくとしても、相変わらず知事の片言隻句を形のうえで実現させることに最大の価値を置く東京都と法人の態度が、よく示されている。
 知事の言によれば、これは「単位バンク」の一環として位置づけられていた。法人が鳴り物入りで喧伝している「単位バンク」は、他大学のいくつかの講義を認定したとのことであるが、ある在京の大学に単位バンクに関連して単位互換を申し入れた際には、大学としての教育責任を放棄するものであるとして相手方が拒否したという事例が、今年になって発生している。また、本学の大学案内のパンフレットでは「他大学等の授業科目も本学の単位修得とみなす制度」という説明がなされている。入学してきた学生のなかには、この制度があたかも本学が認定した他大学の講義を無料で聴講できるかのような認識を持っている者が少なくない。学生や受験生に対して法人は正確な説明すべきであろう。

 「理事長・学長のリーダーシップを確立」?
 また「理事長・学長のリーダーシップを確立」に至っては、いわば虚偽の報告であり、都民を愚弄するものであろう。法人は、先に文部科学省の実施した「公立大学の法人化を契機とした特色ある取組」についてのアンケートでも、「理事長・学長のリーダーシップによる迅速な意思決定を実現するシステムを整備した」ことを強調しており、これについては法人が確信を持っているものと理解したい。
 だが法人化の過程で、理事長は助手の職務実態等についいて誤った認識を公的な場面で吹聴し、教員から激しい批判を浴びた。その後、理事長は2度ほど教員との懇談を行ったのみで、法人、大学の実態についてその目で観察し、分析するなどという態度は持っていないのではないか。学長についても、昨年度、学長としての職務はおろか、兼任する副学長、オープンユニバーシティ長、図書情報センター長等の職務に責任を持たず、業務に大きな支障がでたこと、センター入試の監督員を前に、およそ大学入試という大学の事業として最も重要なものの一つであり、かつ非常に緊張を強いられる場での発言とは思えない言葉を発し、教職員の顰蹙を買ったことは周知のことである。
 「理事長、学長のリーダーシップを確立」したなどということを主張する理由を、文書を作成した法人の幹部職員は、具体例をあげて教職員・学生と都民に対して詳細に説明する義務があろう。

 17億円の利益? 余ればいいってもんじゃない
 また決算については、経営努力による節減効果として利益が17億円であったことをあげている。だが、研究費配分において、あいかわらず教育研究の実態をまったく反映しない配分が行われたため、教育研究に大きな支障がでているのが実態であること、ある教育分野に対して、予算が計上されていないことが年度途中に発覚したことなど、教育研究に対して適切な予算配分がなされてきたとはとうてい思えない。また固有職員の賃金水準、教員の給与における手当の廃止など、法人に働く者の労働条件を切りつめているのが実態であろう。
 教育研究や教職員の賃金の犠牲により、予算を17億円浮かせたことを礼賛するのは、本末転倒であろう。またキャンパス間の引越、老朽化した施設の改善など、早急に手をつけるべきことはいくらでもある。
 東京都にとって「経営的視点」とは、財政配分の生み出す効果ではなく、事業の実態を無視してでも予算を余らせることにあるのだろうか。この「アクション・プログラム」の冒頭には、本学が設立された目的の一つとして、「大学運営に経営感覚を導入し、戦略的な大学運営を実現していくこと」が掲げられている。法人運営の方針というならばわかるが、これが大学設立の目的というのはいかにも面妖である。もしそうだとすれば、事業の実態を顧みず予算を余らせることを自己目的化することもうなずけるのだが。

 「真の人間教育」とは何か?
 同時に法人は「改革加速アクション・プログラム」を発表している。中期計画の達成に向けて大学改革を加速する取組は次の通りである。
 「真の人間教育の実現を目指し、基礎教育センターの拡充など教育実施体制の充実」、「プロジェクト型人材登用ファンド」創設、「大型外部資金受入研究拠点」整備、都の産業支援拠点との連携強化、法人中核人材の独自採用・育成をあげている。
 そのうち、真の人間教育では、「ロマン」と「人間力」を持つ人材を育てるとして、「新たな基礎・教養教育」開始、大学院再編などの開学1年目の成果を深化させることがあげられている。ここで唐突に掲げられた「ロマン」と「人間力」がいったい何をさしているのかが不明だが、東京都が導入した都市教養プログラムなどのいかなる総括の上に、こうした「真の人間力」なる新しいスローガンがでてくるのかまったく不明である。また教学組織でもいっさい議論をしたという話は聞いていないのである。
   
 法人職員の育成は必要
  法人職員の育成について、「アクション・プログラム」では、現行の固有職員制度の見直しと、将来の法人運営の中核を担うにふさわしい人材の確保・育成を目的とする新たな固有職員制度を整備するとある。これは法人の実態をみれば当然である。
 現在、派遣職員とともに学務、会計その他大学の業務のあらゆる場面で活躍し、かつあらためて法人に採用されることを希望する職員を、期限の定めのない職員として育成することが重要である。
 また法人の幹部職員に関しても、東京都の職員異動によって最大2年程度で交代するのでは、5年、10年先を見越した戦略的な大学運営は不可能である。現在の幹部職員のうち特に有能な人材について、東京都を退職の上法人固有職員として採用することもあってよいだろう。法人は、間違っても都幹部職員の退職後の「天下り」のために法人の幹部職員ポストを使うべきではない。

 誰が責任をとるのか
 さて今回発表された文書だが、「事業面での主な取組」、「改革加速アクション・プログラム」の問い合わせ先は、経営企画室長となっている。だが経営企画室長は、7月16日付の異動で、事務局長とともに大学を去ることになっている。そもそも法人事務局のナンバーワン、ナンバーツーがそろって異動とは、無責任体制もはなはだしい。
 大事なのはこのような作文をすることではなく、法人が礼賛する17年度の「成果」や17億円の「利益」の実態がいかなるものであり、教育研究の発展という観点から果たして評価に値するものなのかどうかを、吟味していくことのはずだ。
 中期目標・中期計画という法人の事業を評価するための一定の期間があるのであり、最低限、単年度の総括だけではなくその期間全体の評価を行うことが、経営者としての責任ではないのか。

 教学組織を含めた議論の上で本学の教育研究の成果を公表せよ
 組合は、今後決算報告の詳細な分析、また「アクション・プログラム」のさらなる批判を行う予定である。法人は役人の作文ではなく、教学組織での議論した教育研究の成果を含めた報告を、都民に対して行う立場に立つべきであろう。