2335号

 
あからさまな不利益変更を明記 教員の懲戒・降任・解雇手続も不在
理事長の許可なしには学会発表もできない?!
重大な問題点だらけの新法人就業規則案
職場代表委員を中心に旺盛な討議と批判を!

 大学管理本部は11日夜の専門委員会交渉で、組合に対し、新法人の就業規則並びにその下位規定である給与規則等を提示しました。それらには重大な内容が多々盛り込まれています。例えば旧制度教職員給与規則では、以下に示すような不利益変更があからさまに規定されています。また、これまで教育公務員特例法等で具体的に規定されていた教員の懲戒・降任・解雇等の手続が全く規則等には盛り込まれておらず、教員の身分の保障がきわめて不明確なものとなっています。さらに、就業規則に盛り込まれている服務規律等の規定では、学内外における教職員の言論・表現等に関する重大な制限が行われようとしています。
  組合は本日夕刻予定されている専門委員会交渉等の場において、これらの問題点を厳しく指摘し、それらの規定の変更や削除等を求めていきます。
今後、各キャンパスごとの過半数代表者を通じて学内にその詳細が伝達されるはずです。すべての教職員の皆さんが、是非、これらの案について検討し、職場代表委員などを通してその意見を集約されることを訴えます。就業規則等に関しては過半数代表者による意見の添付が、労働基準監督署への届け出でに際して義務づけられているほか、超過勤務を命じるためには労使協定が必要など、諸規則等の内容確定には、過半数代表の同意を必要とする事柄も少なくありません。例えば超過勤務に関する労使協定(通称36協定)不在では、法人が教職員に超過勤務を命じることは法令違反となります。
  全学の教職員が団結すれば、これらの不当・不法な諸規定を改めさせることは不可能ではありません。すべての教職員の皆さんが、討議の輪に加わり、批判の声をあげていくことを呼びかけます。


「公立大学法人首都大学東京就業規則」(案)等の問題点

1.教員の特性をふまえない規則構成
(総則並びに第4条・10条・11条・12条・25条・43条・45条・47条)

 現行の公立大学教員の人事・服務等に関しては、地方公務員法に加えて、教育公務員特例法がとくに教員についての規定を行っていた。教特法の趣旨は「教育を通じて国民全体に奉仕する教育公務員の職務とその責任の特殊性」(同第1条)に基づき、教員の任免、分限、懲戒、服務、研修等について規定したものである。これは、憲法に規定される学問の自由や、教育基本法に規定される全体の奉仕者としての教員の性格とそのための身分の尊重等を受け、それらを保障するための規定の具体化である。

 教特法には以下のような規定が盛り込まれている。
〈採用および昇任〉採用および昇任は「選考による」(同第4条)とされた上で、「選考は、評議会の議に基づき学長の定める基準により、教授会の議に基づき学長が行う」など、その手続きが具体的詳細に定められている。
〈転任・降任・免職および懲戒〉転任・降任・免職および懲戒に関しては、評議会における審査が必要とされ、審査にあたっては審査事由を記載した説明書の本人への交付、本人は説明書を受領してから14日以内に口頭または書面による意見陳述を請求することができるなど、その手続きの詳細が規定されている(同第5条・第6条・第9条)。
〈勤務成績の評定〉勤務成績の評定に関しては、教授会の議に基づき学長が行うことと規定されている(同第12条)。
〈研修〉「研修を受ける機会が与えられなければならない」とした上で、「授業に支障のない限り、本属長の承認を受けて、勤務場所を離れて研修を行うことができる」と規定している(同第20条)。

 法人化後もそのような教員の特性に配慮するため、例えば東京大学では「教職員就業規則」以外に「教員の就業に関する規程」を特にもうけ、採用・昇任、懲戒・解雇・降任・配置換・出向等についての審査機関と手続、勤務成績評価手続、研修権などが具体的に規定されているほか、さらに懲戒手続、サバティカル研修などについてその下位規定までを設けている。そしてこれらの手続を経ることなしには懲戒・解雇等、教員の不利益となる措置は行えないこととされている。
  これに対して、今回提示された就業規則案においては、第一に、採用・昇任、懲戒・解雇・降任、配置換・出向、勤務成績評定等に関して、審査機関や具体的な手続等は一切規定されておらず、また手続等に関する下位規定も想定されていない。これらは対象となる教員本人にとって不利益となる可能性が十分あり得るとともに、先に述べた教員の特性からして、教育研究の専門性をふまえた公正かつ慎重な審査が必要とされるものであり、その手続や不服申し立ての権利等が具体的に規定されるべきものである。
  また懲戒事由についても、東大の規程などが具体的な事例を列挙しているのに対し、案第45条の規定は抽象的で無限定な規定となっており問題である。
  第二に、研修ついて案は「教職員は、・・・・研修に参加することを命じられた場合には、研修を受けなければならない」とのみ規定している。しかし、教育研究の専門性に沿った研修は、教員にとっては責務であるとともに権利である。また教員にとっては自主研修が基本であり、任命権者の命ずる研修への参加はたとえあり得たとしても付随的なものにすぎない。教特法第20条の趣旨に沿った内容こそが規定されるべきである。

 都派遣職員を考慮して、東京都都職員の人事・服務等に関する諸規定との整合性を図ったとみられる部分が多い。派遣職員にとって都職員との整合性を図り、同等の諸権利を保障することは当然である。しかし一方で、そのことによって多数を占める大学教員のもつ特性を一切無視した規定をそのまま適用しようとすることは問題である。仮に東京都との整合性を重視するのであれば、東大のように教員に関する規定を独自に設け、教員に関してはそれを優先させるなどが行われるべきである。

2.重大な不利益変更をあからさまに規定した給与規則

(1) 「旧制度」教員の給与について(「公立大学法人首都大学東京旧制度教職員給与規則」(案))
  「給与表の級及び号給は、旧制度教員として任用されている間、上位の級及び号給に変更しない」(第3条2)としている。これはあからさまな不利益変更であり、承伏できない。

(2) 「新制度」教員の給与について(「公立大学法人首都大学東京教職員給与規則」(案))
  第一に、「教員の年俸は、年度ごとに理事長が決定する」(第4条2)と規定されているが、「新制度」年俸は明らかに年功的要素を持っている以上、昇給の基準等、昇給規定が示されるべきである。
  第二に、「新制度」基本給の決定に際して勘案されるべき事項として示されているもの(第5条)のうち、「(1)職」「(2)能力及び業績」は職務給・業績給によって本来カバーされるべきものではなかろうか。また「(3)法人への貢献に対する期待度」とは、何を意味するものであろうか。

(3)給与支払日に関して(「教職員給与規則」第23条、「旧制度給与規則」第25条)
  理事長は規定で定めた給与支給日に支払えない場合、別に支払日を定めることができるとして、その場合の理由に非常災害とともに「給与事務のふくそう」をあげている。このような理由で給与支払いを一方的に延期できる規定は、公序良俗に反するものである。

3.言論・表現に不当な制限を加える服務規律
(第29〜39条)
 
第一に、全体に教職員の学内外での言論・表現について、不当に制限する規定が多く盛り込まれている点が重大な問題である。
  第36条4では「任命権者の許可なく文書を他に示」すこと等を禁じているが、文書を特定することもなくこのように規定することは重大である。この規定によれば、学会での発表はおろか、大学案内を受験生等に配布することさえ、任命権者の許可なしには行えないことになる。
  第38条では教職員が学内で文書等を配布しようとするときはあらかじめ任命権者に届け出、その許可を得ることを規定している。教職員が様々な集会や研究会などについて学内で知らせたり、意見表明を行うことはすべて任命権者の許可なしにはできないことにある。さらに同2項では学内での配布を禁じる内容が規定されているが、各項とも無限定であることに加え、すべて「おそれのあるもの」と任命権者の恣意的な判断の余地を大きく残す規定となっている。
  大学は、社会一般に比べても、言論・表現の自由が一層十分に保障されることが求められる場である。そのような場において、このような違法・違憲ともいえる不当な制限を加えることは、あってはならないことである。

 第二に、近年では多くの民間営利企業ですら規定されることが多い、内部告発の保護に関する規定が存在しない。さらに第31条2項では教職員が法令による証人等になり業務上の秘密に属することを発表するときは、任命権者の許可が必要と規定しているが、これは内部告発や内部告発に基づく裁判等での証言について、法人の不利になる証言を禁じる不当な内容といえる。

 第三に、収賄の禁止(第32条)は、公務員でない以上「収賄」は成立せず、「教職員は職務や地位を自己の私的利益のために使ってはならない」などの規定とすべきである。

 第四に、第29条は職務専念義務を規定するとともに、職務専念義務を免除される事由・期間等についても、明示して規定すべきである。

 第五に、倫理に関する規定(第33条)については、多くの国立大学で行われているように、倫理規程等を独自に設け、より具体的に規定すべきである。